以下の文面はフィクションです。
実在する人物、団体、組織等とは一切関係がございません。
似てる人が居ても、それは偶然の産物です。
妄想と現実を混同しないように気をつけましょう。
間違えてもテ○朝とか○映とかにチクんないでね。(・ωノ|柱
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いつでもお茶を淹れて待ってますから。
その言葉に嘘は無かった。
ちょっと顔を出してみれば、彼はにっこりと笑って新しく手に入れたお茶や珍しいお茶を簡単なウンチクと共に出してくれる。
そうやって宇佐見がお茶の準備を始めていると、このチャンスを逃すまいと相馬や涌田も仕事の手を休めて集まってくる。
ぼやきながら所長も。
マリコが出てくるのは一番後で、一番リアクションが大きい。
今までと変わらない風景。
自分の肩書が変わったからと言って、彼らとの関係までが変わったわけじゃない。
分かっているけど。
「ご馳走様でした、それじゃ僕はもう戻ります」
「もっとゆっくりしてても良いのに」
「内勤の仕事は机に座っていて当たり前でしょ?
ここで時間潰していると前より目立つんですよ」
困ったようなくすぐったいような、そんな笑顔を残して木島が席を立つ。
本来この科捜研の中央テーブルには椅子は用意されてないのだが、退院したばかりの彼のために宇佐見がそっと出しておいたのだ。
「あ、そうだ。風丘先生がホテルドラクロアのケーキ持ってきてくれたら次は絶対に声かけて下さいね」
「残念。風丘せんせの今のお気に入りは菓子司わらびの練り切りなんだ」
それでも良いですよ、と。
軽やかな笑い声を残して彼は部屋を出て行った。
こうして彼が変わらずに気軽に顔を出してくれることに安堵したのは、科捜研のメンバーも同じだった。
刑事職を離れたことで敬遠されるのではないか、という懸念を密かに抱いていたが、彼は人懐こい笑顔を振りまいてちょくちょく寄ってくれる。
そうゆう繋がりが残るのは、やはり嬉しい。
だが。
「先輩、やっぱりまだ歩き方がおかしいですよね・・」
涌田の消え入りそうな囁きに、宇佐見の鼻先から小さなため息が漏れた。
「至近距離で撃たれましたからね。運動神経の一部が傷ついてしまうと意外な場所に障害が出たりすることもあるんです。
でもリハビリで治るものだと聞いていますし、木島くんも頑張っているようですよ。
若い彼の事ですから、またすぐ元気に駆け回れるようになりますよ」
「今は、警務部の装備関係の部署にいるんだっけ?」
「そうみたいっす。現場を経験してる人間が居た方が分かり易いからって。
でも木島っちも意外と抜けてるから、ちゃんと備品管理出来るんですかね」
「それをね、君が言うんじゃないよ。この前使った道具、出しっぱなしだったじゃないか」
罰が悪そうな顔をして、相馬は淹れて貰ったお茶を片手にそそくさと自分の研究室に逃げて行った。
「さ、私たちも続きに戻りましょう。まだまだしなきゃいけないことが沢山ありますからね」
「いや、マリコくんが僕等の仕事を増やしてくれてるんだけど・・・」
「そうだ所長、この前お願いした解析、もう終わりましたか?」
「ほら~~。もう、今やってますよ!」
マリコと所長の漫才みたいなやり取りも、相変わらずだった。
木島が退院し、正式に警務部に配属になって一ヶ月が経とうとしている。
内勤の仕事なんて昼夜関係ない刑事に比べえたら楽なものだろうと思っていたのが甘かった。
備品の管理や維持に整備、使用の書類作成に現物の所在確認など、口で語られるよりも中身はややこしく面倒くさい。
その扱いの中に拳銃や鑑識が使う劇物なども含まれるのだから、慎重にしてしすぎるということは無い。
「あ、パトカーの車検、手配しとかなきゃ」
加えて現場の人間がいつでも快適に備品を使えるよう、常に万全の準備が求められる。
使う側の言い分もあるので、確かに現場経験のある人間が居た方がスムーズという配属の言い分も分かる。
今までは当たり前に使ってきたが、こうした裏方の仕事があってのことだと今更ながらに感謝をせずにはいられない。
「木島~~、生安課に移動人事があるから、新しい制服いるか確認しといてくれ」
「昨日のうちに人事と生安にはメールしときましたけど、予備のストックもありますから大丈夫ですよ」
「そりゃ手回し良いな。万年人手不足の部署だから、お前が来てくれて助かるよ」
最初は現場戻りの木島を疎ましがっていた連中も、一緒に働き出したら気のいい奴らばかりだった。
今は自分の成すべきことに集中しよう。
ただそう思って、ひたすらに毎日を過ごしていた。
やることは、多い方が良い。
余計なことを考える暇がなくなるからだ。
考えたくないことを、忘れていられるから。
続く