1 うさぎと銀行
待ち合い室は退屈だ。
ここにいる人たちは いやに塩らしくて、無機質なパソコンの音だけが、無駄に広いホールに響いている。
アリスは最後の飴も舐め終えてしまって、本当に何もすることがなくなっていた。
ぽかぽかな陽気のせいで眠くて眠くて仕方がない。
想像のなかで花の冠を作るのも楽しそうだけど、やっぱり眠くて瞼が閉じられる。
隣で呼ばれるのを待っている姉さえも、ウトウトし始めていた。
何度か姉の読んでいる本をこっそりのぞいてみたが、淡々と文字が羅列されているだけで、退屈しのぎにもならなかった。
あんな本を読んで楽しいのだろうか。
待ちくたびれて居眠りしている姉を見やりながら、アリスはゆっくりと瞼を瞬かせる。
と、そのとき白い何かが叫び声とともにアリスの視界に飛び込んできた。
「もしもし、もしもし!」
スーツ姿のそれは、スマホを片手に何度も何度も叫びながら、ホールをジグザグに駆けていく。
さっきまでの眠気は一気に醒めて、小さな丸い目がめいいっぱいに広げられる。
白く長い耳がイスの下にもぐり込んでいくのをアリスは見逃さなかった。
急いで下をのぞきこむが、もうその姿はない。
それだけでも不思議なのに、なぜか今アリスの座るイスの下には、青々と草が生い茂っていた。
隣の姉の席を見ても 草なんて生えていない。
髪を逆さまにしたアリスは首を傾げる。
その目の先には、陽をいっぱいに浴びた 逆さまの原っぱが映っていた。
頬を撫でる風が心地よい。
吸い寄せられるようにアリスは、うさぎを追って陽の光へともぐり込んだ。