2013年10月10日


 今回紹介する詩に筆者の付けた題は「汝の命、何の辜(つみ)か有る」である。題としながらその意味に自信がない。文脈から「汝の命」も大したものではない、価値あるものではない、と読むのが自然のようなので、「汝の命が奪われたとて、誰が罪とされようか」と解釈することにした。めずらしく武人を対象としている詩である。岩波文庫72ページ、85番目の詩である。

 家を去って一万里            (遠く家を離れて)
 剣を提(ひっさげ)て匈奴を撃つ    (剣をとって匈奴と闘う)
 利を得れば渠(かれ)すなわち死し (こちらが有利であれば、相手は死に)
 利を失えば汝がすなわち倒れん  (不利であれば、汝が倒れる)
 渠が命、すでに惜しまず       (相手の死は当然あわれむべきものではないが)
 汝の命、何の辜(つみ)か有る   (汝の命も奪われたとて、誰が罪とされようか)
 汝に百勝の術を教えん       (汝に連戦連勝の術を教えよう)

 不貪をもって上謀と為す      (勝利にこだわらないことこそ、最も上策である)


 毎回の感想であるが、寒山詩では片足を俗世に残しているようなところとよくぶつかる。
 今回も百勝の術を教えるという。一勝も意味がないというならわかるが、無反省に勝利を価値としている。すでに「貪」ではないか。