第8章 訪問者のメッセージ 後半
美鈴はベッドの下を恐る恐る覗いた
あ!
そこには
あの木彫りの猫がベッドの下から
美鈴を見ているかのようにこちらを向いて落ちていた。目が光っている。
わっ!!!
美鈴は腰を抜かして床にしゃがみ込む。
真子「みーちゃん!な、何?やだー」
真子の泣き叫ぶ声が部屋中に響いてた。
心臓がバクバクしてきた。
わーーーーー!
また真子が叫んだ
美鈴も一緒に叫んだ
美鈴「今度はなにー⁈」
真子「み。みーちゃんの体から大介お兄ちゃんが出て行った!」
真っ青な顔でガタガタ震えている。
美鈴「え!え?わーー!」
美鈴は自分の体を手で払った。
真子「怖いよ、怖い」
美鈴もうん。と答えたものの
驚きはしたが怖さはさほど感じなかった。
真子を見た。
真子はポカンと口を半開きで美鈴を見ている。
その顔を見ながら
真子の叫びの方が怖かったよ。と笑いたくなった。
妙に落ち着いてる自分が不思議だ。
再びベッドの下の木彫りの猫を見た。
目は光っていなかった。
木彫りの猫を持ち上げて元の棚に置いた。
ジーッと猫を見つめる。
この木彫りの黒猫に出会ってから
不思議なことが起きるようになった気がする。
いや。それ以前からだ。
道に迷った時に黒猫と出会ったあの夜から
不思議な出来事が始まったのだ。
しばらく時間が止まった。
気がつくと真子はソファで眠っていた。
白々と夜が明けてきた。
今日は晴れるね。
私も少し寝よう…
Rock musician モアン
日曜日の朝。
昨夜の騒ぎはなかったかのように
穏やかな陽射しがリビングに射し込む。
美鈴は朝食の支度を始めた。
昨日買い物しておいて良かった。
誰かと食事をするのは久しぶりだ。
真子「おはようございます」
美鈴「おはようございます。少しは眠れた?」
真子「爆睡した。目が覚めてから思い出したんだけど
お風呂入ってなかった。あとで頂いてもいいかな」
美鈴「あ、そうね。あの騒ぎで私も入りそびれた」
真子「あの騒ぎ?」
美鈴「え。あ、大介ちゃん」
真子「あ!やっぱり夢じゃなかったのね。
でも途中から記憶がないのよ。あれからどうなったの?」
美鈴もはっきりと覚えてなかった。
美鈴「まぁ。とにかく食べよう」
真子「はい。頂きます」
食事をしながら昨夜のことを覚えている範囲で
話し始めたが。
真子ちゃん聞いてる?
上の空な感じ。
美鈴は話をやめた。
真子は無言で食べている。
彼女なりに何か思うことがあり考えているのかもしれないが聞き返しても来ない。
というより昨夜の出来事はすっかり記憶から消えているように思えた。
少しずつ時間のズレが起きているかもしれないな。
食事を終えてお茶を入れて
リビングのソファに移動した。
真子「これは誰の曲?」
真子が1枚のCDを手にした。
美鈴「あ!聴こうか。最近ね。このミュージシャンさんの歌に出会って応援しているの。
モアンさん。素敵な人なの。歌も上手い。彼の歌と人柄に癒されて元気もらえてる。
いつになくテンションが上がって真子に話した。
真子「この人がモアン?」
写真を見ながら聞いてきた。
真子「男性よね?綺麗な人ね。みーちゃん
こういう人が好きなんだ。
でも珍しくない?
今までミュージシャンとかあまり興味ないかと思ってた。」
美鈴「そうかも。この歌良いね。このミュージシャンいいね。っていうのはあったけど
この年になって夢中になるなんて思わなかった。」
CDから流れる楽曲に聴き入った。
優しくそして力強く語りかける彼のメロディ。
真子が聴いてくれて嬉しかった。
真子「うん。上手いね。声良いね。素敵な人だね」
真子どうした?なんか変…
真子「みーちゃんが癒されているならよかった。
ちょっと心配してた。お母さんも心配してた。」
美鈴は真子の言葉に驚いた。
私のことなんて興味もないし心配もしていないと思っていた。
ここに越して来てから一度も訪ねてくれたこともなかったしメールしても返事はほとんどなかった。
もしかしたら…大介ちゃんのおかげかな。
美鈴「ありがとう。悲しいことが続いていたからね。
そんな時にモアンさんの歌に出会った。
この出会いに感謝だな」
真子「うん。うん…あれ?みーちゃん泣いてる?」
美鈴「泣けたーーーー」
真子「あはは」
真子の目にも光るものがみえた。
2人はモアンの曲を暫く聴いていた。
お楽しみに。
「

