こちらはこのブログの記事を翻訳したものです。

 

 

※ブログ主より注意※
 

ここに記述される問題は、既にビーガニズムを理解し、実践している人々に対して提起されたものであり、まだビーガンでない人々がビーガニズムを批判することを擁護することを目的にしたものではありません。



 

ビーガンが野生動物の苦しみに配慮すべき理由。
Brian Tomasik · Sunday 12th of April 2015 

 

しばしば、動物の権利と環境保護主義は密接に関連しているものと考えられています。しかし、自然界における動物の苦しみの問題に関する時、両者の哲学の間には大きな亀裂が生じることになります。一般的に、環境保護主義者は自然には干渉しないことを望みますが、動物擁護の支持者は、野生動物が耐え忍んでいるような苦痛を減らす方法があるかどうか、探求することを支持するでしょう。最も小型で非常に多くの個体数がいる野生動物の間では苦しみは幸せをしのぐであろうということを考えると、野生動物を新たな領域に広める前に、人類はもう一度よく考えなければなりません。
 

子供の頃、私は自然に関するドキュメンタリーを見るのが大好きでした。特に、捕食者たちが獲物を追いかけるシーンは刺激的だと感じました。私は自然を美しく壊れやすいものであると見なしていたために、人間が野生生物の生息地を減らしていることを知り、悲しんでいました。私は10代の頃、様々な自然の地域を保護するため、議会に手紙を書きました。私は、環境保全は将来の世代の人々を援助する最も効果的な方法だと信じていたので、将来の私は環境活動家になるだろうと考えていました。
 

そして2005年、私はアニマルライツを知り、全てが変わったのです。
 

当初、私は、動物に対する懸念は環境保護主義と関連性のあるものだと考えました。私が動物の解放について読んだ最初の本の1つは、ピーター・シンガーの実践の倫理[1]であり、それは種差別主義に反対するだけでなく、生態系の保護を支持していました。ほとんどのビーガンは環境保護主義者であり、肉の消費を減らすために、しばしば環境保護に関する議論を採用します。人間は、動物の生息地の破壊によって彼らに害を与えてはならないということは、私には当然のことのように思えました。そして私は、動物の幸福はそれ自体が重要なものであるため、彼らの生息地を破壊することは、そこに存在していたであろう野生動物の喜びの大きな損失になると考えました。私は、動物のための私の新たな懸念はただ、過去の私の環境主義を強化したのだと思ったのです。

 

環境保護主義と動物の権利
 

動物が倫理的配慮に値することを認識してから数ヶ月後、私は動物の権利と環境主義との間に矛盾を見るようになりました。 2つのイデオロギーの違いのうち、いくつかはよく知られています。典型的な例の一つは、環境保護主義者が一般的に支持しているものの動物の権利活動家が一般的に反対する、個体数が増加し過ぎた鹿の狩猟です。
 

しかし、最も深刻な問題は、野生動物の広範な苦しみでした。環境保護者たちは、獲物、捕食者、寄生虫、病原体の互いの生態学的バランスを大切にしています。しかし、もし私たちが個々の動物に強い共感を持っていれば、生きたまま食べられたり、栄養失調で死んだり、致死的なウイルスに感染して死ぬのは酷いことであると気付きます。私たちは、人間の人口過剰が環境破壊の最大の原因の1つであるにも関わらず、自然災害による人間の死や、HIVのような人間の疾病に、当然のように反対します。ではなぜ、野生動物の病気や災害に関する時にはダブルスタンダードとなるのでしょうか?
 

人間は、狩猟採集の時代でさえ、ほとんどの動物に比べてかなり良い生活を送っていました。そこそこの割合で乳児は成人期に達しました。捕食されるリスクは比較的低く、寿命は数十年間と予測され、個々が死の痛みに直面するまでの長期間の生存が可能でした。
 

残念ながら、ほとんどの動物はそれほど幸運ではありません。多くの種では、大人の個体が数年以上生きることはありません。母親は通常、多数の子を産みますが、安定した個体数で繁殖するには大概、2体を除いてすべてが死亡しなければならないのです。食物連鎖の下の方に位置する動物たちは、危険に対し頻繁に警戒しているかも知れません[3]。そして、捕食者から追い込まれることで、心的外傷後ストレス障害に類似した持続的な精神的ダメージ[4]を生じさせる可能性があります。
 

その状況は、小魚や昆虫など、最も個体数の多い動物にとっては最悪のものです。成虫は最大でも数ヶ月しか生存せず、それぞれの母親は数十または数百の子を出産します。平均すると、赤ちゃんの昆虫は、捕食、共食い、寄生虫、または厳しい天候により、恐るべきことに、死に至るまで、数日間か数週間しか生きられません。
 

これらの点を理解した上で私は、野生の動物は苦しみよりも多くの幸福感を経験するのだ、と楽観的になることができなくなりました。そして私は、恐らくその反対が真実だろうと結論付けました。 Yew-Kwang Ngが一つの論文に書いたように、自然の「進化による最適化は、総合的な喜びを超えた、過度の苦しみをもたらす」[6]。私のこれまでの取り組みに疑問が投げかけられます。過去に私が生息環境の保全を主張していた時、私は実際には苦しみを増やしていたのかも知れません。


 

「自然」は 「良い」を意味しない。
 

多くのビーガンたちは、人間による動物の殺害には反対しますが、野生動物が野生動物を殺すことは受け入れます。例えば、マーク・ベコフは「狩猟、特にその食糧を必要としない人々による狩猟に反対」[7]していますが、彼はさらに、捕食者の再導入も支援しています。「我々は、破壊された地域で新たにコロニーを形成するオオカミや他の先住の肉食動物たちのために、居場所を作る必要がある。」[8]
 

この論理によれば、人間が魚を食べるのは悪いことですが、1日に数ポンドの魚を食べるペンギン[9]は容認できることになります。人間による鹿の狩猟は間違っていますが、オオカミによる鹿の狩猟には問題がありません。しかし、魚や鹿たち、彼ら自身にとっては、狩猟者が誰であるかに関係なく、殺されることには恐怖を感じます。 (オオカミに引き裂かれることは、撃たれること以上に苦痛かも知れません。)
 

一般的な回答[10]は、捕食者たちは生き残るために肉を必要とするため、野生での捕食は人間の狩猟とは異なるということです。 Katelynn Chambersは次のように述べています。「ガゼルを食べるライオンと動物を食べる人間の比較は非常に説得力のないものです。この全面的な議論は、必要のない動物を食べる道徳性に関するものです。ライオンはガゼルを食べる必要があります。彼らはそうしなければ、最終的に死ぬでしょう。」[11]しかし、人間の場合には同じ論理を適用しません。飢えたライオンが人間を攻撃していたとしましょう。ライオンが食べ物を必要としていたからといって、私たちは大人しく身を引くでしょうか?
 

捕食者が食べる権利と、捕食される者が食べられない権利との間の対立は、1対1ではありません。平均的なオオカミは年間約20頭[12]の鹿を殺します。 アルトゥル・ショーペンハウアーは、捕食者と獲物の利益の間の非対称性を認識していました:
 

『この世界の喜びは痛みを上回るか、少なくとも均等なバランスがあるだろうと言われている。この主張が正しいかどうか簡単に知りたかったら、片方がもう片方を食べている2匹の動物の感情をそれぞれ比較してみれば良い。』[13]
 

(この引用は文字通り取られてはなりません。なぜなら、それは犠牲者も死ぬ前には彼らの生活の一部を楽しむのだということを無視しているからです。)
 

多くの人々は、自然のものが良いと、それとなく、または明確に信じています[14]。ビーガンたちはこれが、人間は生来雑食性[16]であるという理由で雑食主義を擁護するために使用される時、この道徳的枠組みを拒絶します[15]。しかし、一部の動物擁護者は、野生動物の苦しみに関して、自然に対するその訴えを常にすぐ拒絶するわけではありません。例えば、PETAがなぜライオンの捕食[17]に抗議しないのかを説明するにあたり、ある人物は次のように述べています。「工場式畜産は自然ではありません。ガゼルを食べるライオンは自然です。」そして同様に、「ライオンは生存のためにそれを行うのであり、それは自然なことです。」
 

しかし、自然は誰かを思いやるために最適化されているのではありません。それは進化の、冷たく過酷な影響力によって最適化されているのです。リチャード・ドーキンスは次のように述べています:「我々が観察する世界の特徴は、実際にいかなる設計も目的もなく、善も悪もなくて、ただ見境のない非情な無関心しかない世界に当然予想される特徴そのものなのである。」[18]。環境保護主義者として自然の残忍さを保つだけではなく、私たちは、異なる生態学的な方針が野生動物の福祉にどのように影響するかを研究し、慎重な研究の結果、野生動物の苦痛を軽減すると期待できる方策に対して、より大きな支援をするべきなのです。

 

我々は野生動物の苦しみに対して無力でしょうか?

ピーター・シンガーは、野生動物を助けるために自然を変えることについて懐疑的[19]な意見を表明しています。「実際の目的のために、自然を自分の目的に合わせて形成しようとする、人間の試みの過去の記録から判断して、我々が野生動物に干渉した場合、動物の最終的な苦しみの量を減らすよりも増やす可能性が高いでしょう。」しかし、もしも野生の世界には幸福よりも多くの苦しみが含まれているとしたなら、その主張は誤りです。野生動物の生息地を人間が私有したことで、おそらく野生動物の苦しみは、人間がそうしようとしたわけではないにせよ、減少したからです。2014年の “Living Planet Report “[20]によれば、 動物の個体数は、40年前のおよそ半分です。それから、無脊椎動物の場合も同様の傾向が見られます[21]。
 

そこには、人類の生態学的な影響が懸念される理由があります。例えば、気候変動は、地球規模の不安定化や戦争の機会を今後数十年間増やすことになり、人類に短期的な害を与えるだけでなく、遠い未来の感覚ある生き物への、永続的な悪影響をもたらす可能性があります。環境問題に関する選択する際には、競合する価値のバランスを考えることが重要です。しかし、少なくとも私たちは、人間の問題だけに焦点を当てたり、野生動物の生活はほとんど良いものであると考えるだけではなく、野生動物の苦しみについて考慮する必要があるでしょう。
 

何十億もの野生の脊椎動物と何千兆もの野生の無脊椎動物[22]が現在、世界中で苦しんでいます。これは差し迫る悲劇ですが、残念ながらこれは最悪の結果ではありません。一部の未来派は、テラフォーミング[24]や、指令されたパンスペルミア[25]などによって、他の惑星に野生生物を広めることを提案しているのです[23]。また、他の人たちは、膨大な数の野生動物[28]や、その他の感覚ある生き物を含む可能性のある、非常に多くの数のシミュレーテッドリアリティ[27]を将来的に運営[26]することを想定しています[29]。通常、これらの動物が耐え忍ぶであろう主観的な経験が考慮されることはほとんどありません。私たちが野生動物の苦しみを軽減する、最も簡単で最も重要な方法は、それらを広げないようにすることです。

 

宗教学者たちは歴史を通して疑問に思っています:神はなぜ自然界にこのように多くの苦しみを許したのだろうか?[30]と。もし、野生動物を新しい領域に広げるとするのならば、私たちはその質問に答える必要があります。



 

この記事は初めにreduction-suffering.orgに掲載されており、著者の許可を得てここに転載されたものです。
 

ブライアン・トマシックは、動物に関する活動とその他の多くの話題について論じているウェブサイト「Reducing Suffering」の著者です。彼はまた、遠い将来の苦痛を減らすための、人工知能、人類学的推論、および意識の理論を研究する組織である、the Foundational Research Instituteのボランティアです。以前はMicrosoftのソフトウェア開発エンジニアとして働いていました。




 

参考
 

[1]Singer’s Practical Ethics is available on Amazon.

http://www.amazon.com/Practical-Ethics-Peter-Singer/dp/0521707684
 

[2]This essay presents an overview of the differences between animal rights and environmentalism.

http://animalrights.about.com/od/animalrights101/a/Comparing-And-Contrasting-The-Animal-Rights-And-Environmental-Movements.htm
 

[3]This article describes how predators ‘create a landscape of fear’ for their prey.

http://opinionator.blogs.nytimes.com/2009/09/29/where-tasty-morsels-fear-to-tread/?_r=0
 

[4]This paper published by Scholar Commons University of South Florida examines post-traumatic stress disorder in rats.

http://scholarcommons.usf.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1583&context=etd
 

[5]This ‘life table’ shows how many insects die as they mature from eggs to adults.

https://en.wikipedia.org/wiki/Pest_insect_population_dynamics#Life_tables
 

[6]Titled Towards Welfare Biology, and available for purchase here.

http://link.springer.com/article/10.1007%2FBF00852469
 

[7]As he wrote in this article for Psychology Today.

https://www.psychologytoday.com/blog/animal-emotions/201112/heartless-hunting-maiming-then-killing-deer-no-remorse
 

[8]As he and his co-author wrote in this paper published in the journal Animals.

http://www.mdpi.com/2076-2615/1/1/126
 

[9]Adult Emperor Penguins consume 2-5 kg (4.4-11 lb) of food per day! .

http://reducing-suffering.org/how-much-direct-suffering-is-caused-by-various-animal-foods/#Non-human_carnivores
 

[10]Some examples of this reply can be found on the horribly fascinating Yahoo Answers.

https://answers.yahoo.com/question/index?qid=20080208032722AAVE4Wd
 

[11]In this debate, published on debate.org.

http://www.debate.org/debates/Moral-Argument-Meat-Eating/1
 

[12]Number drawn from the Grey Wolf Factsheet.

http://web.archive.org/web/20140325235031/http://dnr.wi.gov/topic/wildlifehabitat/wolf/facts.html
 

[13]From Schopenhauer’s Studies in Pessimism, ebook available online.

https://ebooks.adelaide.edu.au/s/schopenhauer/arthur/pessimism/chapter1.html
 

[14] This faulty argument is called an ‘appeal to nature’.

https://en.wikipedia.org/wiki/Appeal_to_nature
 

[15] A deconstruction of the appeal to nature argument from a vegan perspective.

http://yourcybercourt.info/fallacies/list.html#sec-17
 

[16] Humans are Omnivores, adapted from a talk by John McArdle.

https://www.vrg.org/nutshell/omni.htm
 

[17] Why don’t PETA protest lions eating gazelles? asks a contributor to Yahoo Answers.

https://answers.yahoo.com/question/index?qid=20080731131831AAdpISO
 

[18] In River out of Eden quoted here.

https://en.wikiquote.org/wiki/Richard_Dawkins#River_out_of_Eden_.281995.29
 

[19] In this conversation with David Rosinger published in the New York Review of Books.

http://www.nybooks.com/articles/archives/1973/jun/14/food-for-thought/
 

[20] The 2014 Living Planet Report from the World Wildlife Fund is available here.

http://www.livingplanetindex.org/projects?main_page_project=LivingPlanetReport&home_flag=1
 

[21] ‘Invertebrate numbers nearly halve as human population doubles’.

http://www.ucl.ac.uk/news/news-articles/0714/240714_invertebrate-numbers
 

[22] How Many Wild Animals Are There?.

http://reducing-suffering.org/how-many-wild-animals-are-there/
 

[23] Biotic Ethics defines a human purpose to secure and propagate life.

https://en.wikipedia.org/wiki/Biotic_ethics
 

[24] Terraforming is the theoretical process of modifying a planetary body to create an earth-like environment capable of sustaining life.

https://en.wikipedia.org/wiki/Terraforming
 

[25] Directed Panspermia is the theoretical process of transporting microörganisms through space to introduce life to lifeless planets.

https://en.wikipedia.org/wiki/Directed_panspermia
 

[26] Such as Nick Bostrom.

http://www.nickbostrom.com/astronomical/waste.html
 

[27] Simulated realities or ‘artificial life games’ already exist and look to grow more complex.

https://en.wikipedia.org/wiki/Life_simulation_game
 

[28] Like WolfQuest in which you play a gray wolf.

https://en.wikipedia.org/wiki/WolfQuest
 

[29] Artificial Life will likely become progressively more sophisticated.

https://en.wikipedia.org/wiki/Artificial_life
 

[30] Michael J Murray’s book Nature Red in Tooth and Claw specifically addresses the problem of evil through the lens of animal pain and suffering. Available on Amazon.

http://www.amazon.com/Nature-Red-Tooth-Claw-Suffering/dp/0199596328






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