ソニーミュージックと韓国の芸能事務所JYPエンターテインメントの日韓共同オーディション『Nizi Project』より誕生したガールズグループ・NiziU。動画配信サービス『Hulu』で異例の人気を博し、デビューミニアルバム『Make you happy』もいきなりヒットした彼女たちは、メンバー全員が日本人でありながら、目指していたのはK-POPスタイルのグループ。そこからは、地方から地下まで大量生産による飽和状態となった日本のアイドルシーンで、日本デビューを目標としない、世界を視野に入れた本物志向のK-POPネイティブ世代の台頭がうかがえる。
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◆日本デビューが目標ではないK-POPネイティブ世代 世界での活躍=韓国デビューが近道?
『Nizi Project』は、乃木坂46ら坂道シリーズを手がけるソニーミュージックとTWICEや2PMを輩出した韓国のJYPエンターテインメントによる「世界で活躍できる新しいガールズグループ」の発掘、育成を目的にした共同事業。そこからNiziUがデビューすると、ミュージックビデオは公開翌日に1000万回再生、配信でもオリコン週間デジタルランキングでデジタルシングル(単曲)、デジタルアルバム、ストリーミングの3部門同時1位(7/13付)を獲得。その人気ぶりは、JYPエンターテインメントの株価を急騰させるほどのインパクトのある社会現象となった。
近年、韓国では参加者たちの生き残りをかけた真剣勝負に密着するサバイバルオーディション番組が人気を得るとともに乱立し、そこから多くのスターが誕生している。もちろん日本でも、参加者の“光と影”を描いた昭和を代表する『スター誕生!』(日本テレビ系)や、挫折と敗北から参加者が這い上がるストーリー性が人気を得た平成を代表する『ASAYAN』(テレビ東京系)といった名物番組の歴史がある。そして、それらの究極形として“負”の部分が凝縮したような『水曜日のダウンタウン』(TBS系)の企画「MONSTER IDOL」も登場した。時代とともに遷り変わるエンタメ化されたオーディションコンテンツが生まれてきた。そうしたなか、『Nizi Project』は、令和ならではの新たなスタンダードとして若い世代に受け入れられた。
そこにあるのは、「根性・涙・挫折・裏切り」に焦点をあてたかつてとは真逆の「友情・努力・笑顔」といった“『週刊少年ジャンプ』(集英社)の精神=温かく感動を呼ぶもの”。プロジェクトを手がけるプロデューサー・J.Y.Parkが練習生と接するときに見せる笑顔や気配りをはじめ、厳しいだけではない“愛のある”言葉などは、参加者だけでなく視聴者をも勇気づけて感情移入させ、より「応援したくなる」心情を生むスタイルで現代の若者たちの心を掴んでいる。
そして、これまでと大きく異なるのは、そうしたオーディション番組のスタイルだけではなく、参加者の意識だ。彼女たちが目指しているのは、従来の日本スタイルのアイドルではなく、J.Y.Parkが手がけるK-POPスタイルのアイドルということ。K-POPネイティブ世代となる現代の若者たちにとって目指すべき場所は、日本の芸能界ではない。世界への近道となる韓国デビューであり、そうしたヒットを手がける、実績のあるK-POPプロデューサーらの手によって世に出ることだ。
◆TWICEだけではない、韓国デビューする日本人アイドルたちが続々
韓国大衆文化ジャーナリストの古家正亨氏は、「僕が教えている大学の生徒には、K-POPアイドルになりたいという学生が多くいます。その理由を聞くと、日本にいても世界を目指せないと言いますが、そこに今の若い世代の想いが集約されている気がします」(2017年12月29日/ORICON NEWSより)と語っている。それは、世界で活躍するBTSやBLACKPINKといったK-POPアーティストのパフォーマンスや、国境を超える躍進ぶりを目の当たりにした若者ならば当然といえる反応かもしれない。
そうした傾向は近年顕著に現れており、K-POPグループで活躍する日本人メンバーは増える一方だ。TWICEやIZ*ONEだけでなく、東方神起を輩出したSMエンタテインメントでもNCT 127には大阪出身のユウタ、BIGBANGが所属するYGエンタテインメントでもTREASUREのメンバー12人のうち4人が日本人。ほかにも、PENTAGONのYUTOや、韓国のオーディション番組『PRODUCE 101 シーズン2』に出演した高田健太もユニット・JBJ95で活動している。さらに公園少女のミヤや、Cherry BulletのKOKORO、REMI、MAYの3人など、数えれば枚挙にいとまがない。
その背景には、アイドルやアーティストを目指す若者たちの多くが、もはや日本ではなく、韓国の芸能事務所で練習生として経験を積むことをデビューへの近道として認識している現状がある。実際、「Nizi Project」の参加メンバーにも、オーディション参加前にJYPエンターテインメントやYGエンタテインメントの練習生として経験を積んでいる。また、TWICEのメンバー・ミナを輩出した大阪のURIZIPをはじめ、韓国デビューを目指す若者を対象とした日本の養成所やスクールも増えており、多くの優秀な人材が集まりはじめている。
会いに行けるアイドルグループ・AKB48をはじめとするトップグループのほか、ローカルを地盤にする地方アイドル、ライブハウスでの公演と物販で活動する地下アイドルまで、飽和状態となった日本のアイドルシーン。それぞれがそれなりに成立する支持を受けたことで、数を打てば当たる大量生産の時代に似たりよったりのグループが多く生まれ、一部を除いて良質な人材が生まれにくい環境を生んでしまった。また、トップグループにおいても、国内でビジネスが成立しているがゆえに、あえて世界を目指すことに本腰を入れてこなかったことが、内向きの現状につながっている。
◆育成プログラムだけでなくライブ配信も日本の先を行く韓国の音楽ビジネス
一方、国内市場が小さいことから、最初から海外に照準を置いて育成に取り組んできた韓国では、ヒットをなぞるオマージュ文化の是非はあるものの、世界に引けを取らない良質な楽曲はもとより、歌唱力やダンスなどのパフォーマンススキルの卓越した、光り輝く原石が誕生している。
それは日本のアイドルシーンの旧来の姿でもある。クラスにいる女の子ではない、街に1人の逸材を探し出し、徹底して磨き上げる。原点回帰した本当の意味での新しい才能を送り出しているのが、今の韓国アイドルシーンなのだろう。
そんな韓国音楽シーンが現状の日本より優位にあることは、育成プログラムだけではなく、ライブ配信についてもコロナ禍において顕著に現れた。BTSのほか、東方神起らを抱えるSMエンタテインメント所属アーティストたちは、オンラインで全世界を対象としたチケット制の大規模ライブを実施し、成功を収めている。この先の音楽シーンの重要な収益源のひとつになるであろう有料ライブ配信のシステム面でも、世界に向けて一歩先を行っていることを示した。デジタルネイティブでもあるK-POPネイティブ世代にとって、こうしたライブ配信でも大いなる可能性を見出したことだろう。
韓国ドラマ『愛の不時着』や『梨泰院クラス』の人気もそうだが、エンタテインメント全体を通していま、韓国が日本の一歩先に進んでいると認めざるを得ない。世界を見据える若い世代が日本でも増えているいま、これまでのビジネスにとらわれず、大量生産ではない、良質なコンテンツを生むための原点回帰が必要になっているのかもしれない。ウィズコロナの時代に日本の音楽シーンがどのように世界と向き合うか。ワールドワイドに活躍するアーティストを生み出す韓国との共同プロジェクトは、ひとつのロールモデルとなることだろう。そうした意味でもNiziUがこの先、世界でどのような活躍をしていくか注目したい。