好きな作家はと聞かれると白石一文氏のお名前をあげることが多いです。2000年のデビュー作の「一瞬の光」の饒舌な筆使いを堪能し、以後、全ての作品を読んできました。2010年に「ほかならぬ人へ」で直木賞を受賞しています。



白石氏の作品で好きなものは2作あります。



2002年の「僕のなかの壊れていない部分」の主人公は最も極端な性格を持ち、頭脳明晰ではあるが人間関係の構築能力が決定的に欠落した男性の、哲学的な物語です。



そして、2007年に発表された「心に龍をちりばめて」は、主人公が女性ということもあり、最も感情移入した作品でした。




マカロンのサンクチュアリ  ~ココロは東へ西へ~



この3作にはいくつかの共通点があります。どの作品の主人公も鼻持ちならないエリートなのですが、心の中に闇を持っています。そして、エリートにはありがちなのですが、性的に歪んだSM的な嗜好を持ち、社会生活における完璧さと、私生活における凋落とのギャップを噛み締めながら生きているのです。



その原因の多くは彼らの子供時代の家庭環境にあります。私のケースで言えば、いわゆる自分を認めてもらえなかった子供は自己肯定が難しくなります。当然、自分と同様に他人を大切にすることも難しくなる。「心に龍をちりばめて」の主人公の美帆も、そんな過去を持つ一人です。



まわりから見れば完璧に見える美帆ですが、結婚相手として条件の完璧な婚約者と対峙することによって、自分の人生を模索し始めます。婚約者を逆上させ、相手が自分に暴力をふるうように仕向けるシーンは、凄惨な暴力と美帆の願望がむき出しになる読み応えのある場面です。美帆は、どんな方法で生き抜いていくのでしょうか。




マカロンのサンクチュアリ  ~ココロは東へ西へ~


心にそっと蓋をしていた部分に真剣に向き合ってみると、新しいドアを開けることができるかもしれません。白石一文さんの本は、そんな作品です。