参考書嫌い
突然だがわたしは参考書が嫌いだ。
「これはこういう風に考えるべきだ。」というような著者の声が聞こえてきそうだから。
しかしながら、世の中色んな場面で「勉強」をしなければならない事が多く、
わたしは参考書を買わずにはならない立場に追い詰められる。
こんな事を話していると、「これはこういう風にも考えられるよ?」と いう様に見るといいよと
助言をもらったりもする。なるほどそうだ。
あぁ何て頑ななわたしのこころと頭。
わたしは誰よりも自由を求めていながら、誰よりも頑なな考えで自分を動かしている。
参考書を傍らに友達として。経験を恋人として。
わたしは今どこにいますか?
- Various Artists
- The Best Jazz Album in an American Tradition, Vol. 2
- Ahmad Jamal
- Live at Bubba's
今日は雨で、アスファルトから立ち上がる匂いにむせそうだった。
ムシムシとした空気が不快指数を上げるので、会社のみんなもイライラしてた。
みんなのイライラが空気に乗ってイライラムシムシ.....
残業を言い渡されたのが、定時過ぎでうんざり。
まぁでも忙しいのは嫌いじゃないんだけどな。
でも、雨の夜に聞くJAZZはとても好き。
JAZZは湿度があるとより響く気がする。
過去。私は暴力的な若さを持っていた。
サトルとは私の上京を機に別れた。2年3ヶ月。
東京の友達の誘いに、目の前の華やかな世界に、私は何も考えずに上京を決意した。
今でも思い出さない時はない。サトルの切れ長な目、長い指、笑ったときの目尻の皺。どれもが恋しい。
「アンは何でも自分ひとりで決めちゃうんだな。俺の存在なんてアンの人生にとって取るに足らないものなんだろうな。もういいよ。」
もういいよ
サトルは怒るでもなく、泣きすがるでもなく、そう言って私の元を去った。
私は別れる必要なんてどこにも無いと思っていた。でも、いつ帰るかなんて決めていなかった。
正直2年付き合って、倦怠期を迎えていた。新しい恋をしてみたいという気持ちが無かった訳ではない。
「そろそろ行きますか。」
健太がレシートを取って席を立った。健太の背中はいつのまにあんなに広くなったんだろう。いつの間に私の身長を追い越したのだろう。健太は私の初恋の人だった。幼い頃の淡い思い出。私も健太の「6年越しの初恋の人」だった。
上京してすぐ、友達を介して私の上京話を聞きつけた健太は、以来こうして週に何度も私に会いに来る。
馴染みのホテルに着くと、まるで自分の部屋のように落ち着いた。室内はビジネスホテルのようにシンプルだ。一つ違いがあるとしたらベッドサイドにあるコンドームぐらいだろうか。
「私先にシャワーあびさせて」
「たまには一緒に入るか」
「・・・・今日はひとりで入りたい気分かな。」
少しおどけて見せた。健太は笑うと子供みたいな顔になる。初恋だったあの頃の笑顔。
「今日も。だろう?」
今日は感傷的になっている。こころがざわつく。
健太とこうして重なるようになるなんて、当時は考えられなかった。健太のセックスは柔らかく、そして猛々しい。一緒になったときの一体感が私を安心させる。こころにぽっかりと空いた穴を埋めるように。
私はいつも壊れてしまいそうになる。
「来週の木曜って仕事休みだろ?何か予定入ってる?」
「んー常連さんたちに食事に誘われてるんだ。」
「そっか、俺代休取るつもりだったからどっかドライブでもと思ったんだけどな」
「ふふ。ありがと。また取ってよ」
「喰われんなよー」
「彼氏みたいな事言わないでよ。」
私は少し傷ついた。
健太の事は好きだ。友達として。
理路整然とした物言いや、整った顔立ち、モデルをしていただけあってスタイルも申し分ない。
どこを取っても非の打ち所がない幼馴染が私は少し自慢でもある。
でも健太とは恋仲にはなれない。お互いがお互いを知りすぎているのだ。
私は自分が今まで生きてきて、決してやりたくなかったことを少しずつ経験してしまっている。爪の先から頭の先まで、じわじわと汚れた水が吸い上がってくる。目が、口が、からだが。
いっそ真っ黒になって見えなくなってしまえばいいと。
過去。私は暴力的な若さを持っていた。
「今お前の店の近くに遊びに来てるんだけど出て来れない?」
幼馴染の健太がこうして私を訪ねてくる。と言ってもドライブ好きの彼のことだ。
いつものように友人たちと飲み明かし、今夜の寝床を探しているに違いない。
「今仕事中。終わるの24時ぐらいになるけど」
会うとも会いたいとも取れないメールを返信した。会いたいというよりも、ひとりの部屋に帰ることへの寂しさがあった。私は東京のはずれの、ぎりぎり東京という地名を使えるところにアパートを借りていた。
「了解。終わったら連絡して」
甘い罪悪感に心を焦がしながら、ラッシュの過ぎた店内を眺める。
一般的にダイニングバーと言われるこの店に入って1年を過ぎる。店内は空間デザイナーのオーナーが手がけたというだけあって、機能性よりもデザインが凝っている。この店で働くきっかけになったのも、このデザインが気に入ったのと、カジュアルだけど丁寧な接客に共感したからだ。
現在23時45分。いつもの常連客が、芋焼酎の水割りをちびちび舐めながら(彼はこれを頼むとき「アンちゃんいつもの頼むよ」という。いつもの。というニュアンスが私は好きだ。信用と信頼)今手がけている店の話をしていた。銀座に建設中というその店は、私のイメージからは結びつかない。
「アンちゃんはいつまでこの店で働くつもりなの?まだ若いんだから色々な仕事を経験してみないといけないよ。というより、僕は君が心配でならないんだ。ちょうど娘と同じ歳だ。僕はいつでも待ってるから困った事があったら僕を頼りなさい。」
上京してからこの人はずっと私の心配をしている。私の接客を好きだといった。
「親しげだけど踏み入らない。痒いところに手が届く。」と。
信用とは危険な行為だ。上京してから私はいくつもの信用をしていくつもの裏切りを受けた。
頼る。という行為も同様に。
健太は店の近くのカフェでビールを飲んでいた。水滴がグラスの底を囲んでいる。
「よ。お疲れ。アンは本当によく働くなぁ」
「生きがいですから。健太は?明日休みなの?」
「だから会いに来たんじゃん」
健太は店員を呼びとめ、自分にエスプレッソを、私にカフェラテを注文した。私はいつも帰るとすぐにドリップしたコーヒーに、たっぷりのミルクを入れる。1日が終わる。健太がそれを知っているのは幼馴染だからではない。
「アンさ、男作らないの?いい加減つくらないとどんどん貰い手無くなるぞ」
眉根を寄せながらエスプレッソに口をつけて健太が言った。ひとくち目の苦味がたまらないのだそうだ。
私は黙った。
男。
サトルと別れて何ヶ月経つだろう。
PROFILE
はじめまして。
どこにでもいるだろう、普通の24歳OL2年目のアンと申します。
愛するダーリンと、70kmの遠距離恋愛中。
小説は私を別世界に連れて行ってくれたり、今いる空間とシンクロさせてくれる大事な友達です。
お酒は何でも好きです。100%のこっくりした甘みのあるジュースも好きです。
学生時代はスポーツに明け暮れました。とても日焼けしやすい性質ですが今は色白で通しています。
ずばずばと自分の意見を言い合える、大切な女友達が数名います。
プライベートな部分は秘密主義ですが、かなり社交的な性格です。
愛を語り合った男友達が数名います。
