紅月の袂に咲くは仇花

紅月の袂に咲くは仇花

ここは私の日々感じる事を、きままに書き綴ってます。
小説や詩もあります。

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夜も更け中天に満月が上る頃

まだまだ男たちの話は続く

「アイツはそんな性格だったか?」

「いや・・某には何とも・・」

それぞれが言葉を濁す中、鬼灯は言った

「雪江さんは、自分の本質に過ぎないと言っていました
ただそれを他人には見せたことがないし、見せたいとは思わないのだと」

「雪江の本質、でござるか」

「時として凶暴で醜いもの、自分でも御しきれない化け物がいる
そのようにも言っていました
恐らくは一般の会社勤めでは、およそ勤まるまい、一種独特な軍事機関という枠の中にいるからこそ違和感なく溶け込めると、ご自分の事を良く理解されているようです」

「あいつはアンタには随分色々と話すんだな
俺達には何一つ、そんなこと話さなかったぜ」

「もう付き合いは長いですからね
付き合い始めてすぐ妹さんと浮気した貴方達には、話す必要もないと思ったんでしょう」

「......」

「表面上だけ見て、本質を見ようとしなかった貴方達の負けですよ
雪江さんはこの8年の間、真の絶望を知り恐怖を知り、大切な者を失くす痛みを知り
それら全てを自分の糧としてきました
そして元帥として、立派な上官になられました
仕事人としても素晴らしいですが、男の目線で見るならばあれほどの良い女は他にいないと思いますがね
浅はかな考えで、他所に気移りしてあまつさえ妹さんと付き合いたいから近づいたなどと、戯言をほざく男までいるとは嘆かわしい
まあ、そんな男に彼女が支えられるとは思いませんので、さっさと別れてくれてよかったですが」

リビングの奥の部屋で座っていたらしい慶次に向かって言ったかどうかは分からない

強烈な嫌味を全員に向かって放つと、再び離れに戻っていった

「俺達はあいつの事を何も分かろうとしなかったってことか」

「そうなるんだろうな」

「雪江は8年間でいい物をたくさん得たのでござるな」

3人は自分の底の浅さと鬼灯の器の大きさを改めて思い知ったという

さて翌日もまた波乱の幕開けとなることを、まだ知る由もなかった


政宗は静かにその場を去った

二人の会話を頭の中で幾度も再生しながら

付け入る隙も想いの欠片すらも残していないことを思い知らされた

幸村がリビングに残っていた

今しがたの光景が焼き付いて離れない

「眠れないのでござるか?」

「ああ」

「何してんだこんなとこで?」

元親が奥からやってきた

「おや、お揃いでお話し中ですか?」

離れからこちらに向かって鬼灯が歩いてくる

「あんたは雪江の・・・」

元親が声を上げると、鬼灯は静かに頷いた

「今の恋人です
雪江さんは、先ほどお休みになりましたので起こさないでくださいね」

「貴方、何か聞きたいことがあるんじゃないですか」

政宗のほうを見据えて、問いかけた

「ah-8年続いた理由が知りてえと思ってな」

「ここ空いてるでござるよ」

「失礼します」

独り掛けのソファーに腰を下ろすとゆっくりと話し出した

「付き合い始めた頃はまだ、あんな風ではありませんでした
何かを抑え込むような、大切なものを落としてきたようなそんな感じです」

「ですから、まず私は徹底して彼女の味方でい続けることにしたのです
貴方方にどう見えたかは存じませんが、私からすれば彼女は固く閉じた蕾に見えた
咲いたときにはきっとそれは美しい花になると思いました
それには、まず失くしたものを取り戻さなければなりません」

「そのように見えたのでござるな」

「ええ、結果としては予想以上でした
凛子さんと美香さんから、過去に何があったかすべて聞いています
それが雪江さんを縛る枷になっていることも知っています
ならば私は、それを一つ一つ壊せばいいだけだと思いました」

「その枷とやらが全部壊れたから、あいつは変わったのか」

「そうです
もっとも私は、どんな彼女でも愛していますので生きていてくれればそれでいいですが」

「あんたは、雪江を止めねえのか?
戦場に出てたりもするんだろ?」

「彼女は戦場にいる時こそが一番美しい
よって止める理由はありません
ですがあまりに危険な任務であれば、補佐官の権限で差し止めます」

「戦場にいる時が一番美しいって・・どんなだよ」

元親は頭を抱えた

「本当に綺麗ですよ
何も映さず、迷いもなく、冷酷で、敵に関しては一切の情けも容赦もありません
味方に対しては、この上なく慈悲深く優しい人です
かくいう私も、血塗れの彼女に惹かれたクチですのでねえ・・・」

一同がドン引きの中、鬼灯は更に言葉を紡いだ

「あれは一枚の絵になるような光景でした
頭から血を浴びて、それがまた白い肌によく映える
足元で踏みつけた屍の山の上で、刀を振るう姿と言ったら・・圧巻の一言に尽きますね」

そう、屍の山の上、二人きりの静寂の中で
今なお二人を繋ぐ、あの誓いを立てた

「だから私は、自分の手を血で染めた
雪江さんが、手を血で汚し続けて美しく在るならば、私も同じようにすれば傍にいられるだろうと
何より彼女と同じ景色を見ていたかった」

「それは、どんな景色だったのでござるか?」

「絶望と人の本質が入り混じった地獄でしょうかね
雪江さん曰く、きれいなものには惹かれないそうで、ああいう殺伐とした場所がお好みだそうです」


夕飯を外で済ませた二人は手をつないで、家に戻り家人に挨拶して離れに戻っていった

「雪江姉さん、ちょっとだけ良いかな」

加々知とは別の部屋であるため、人目を憚ることはない

「何、梨穂子」

「立ち入り禁止って言われたけど、来ちゃった」

「聞きたいことでもある?」

「うん、雪江姉さんはどうしてTOXICに入ったの?」

「強くなりたかったからよ」

「それだけ?」

「そう、自分に力がなければ何もできないしね
ただ、いつでも死ねる覚悟は必要だね」

「あんたたちはここに来るんじゃないよ
ここは修羅の道、茨の道だから
絶対に来るんじゃないよ、私はもう、戦場でしか生きられない人間だからここにいるんだ」

「姉さん」

「なまじ平和な世界、っていうのは性格に合わない
殺伐とした世界の方が落ち着くんだよ」

「辛くないの?」

「全然
この血まみれの人殺しの手でも握り返してくれる人がいるから」

「それが加々知さん?」

「そう
私と同じ世界で生きるために、手を汚した男
そして黄泉路をたどる時も二人で一緒にいるとまで言い切った男よ」

「・・・・・」

「だから私は、彼の気持ちに応えようと思うの
この汚れた手で守れるのなら、何からでもどんな手段を使ってでも彼を守るわ
さ、あんたも早く自分の部屋に帰んなさい
ばあちゃんに怒られるよ」

「うん、分かった」

梨穂子が去った後、静かに呟いた

「あんたが死ぬ時は一緒に私も着いていくわ 鬼灯
あんたが昔私に言ったように、これで一緒だと言ってくれたように・・・」

少し離れた柱の陰に、政宗がいたとも知らず

「思い出すなあ、」

「何をですか?」

「あらいたの鬼灯?」

「さっきからいましたよ、独り言にしては大きな声でしたね」

いきなり背後から現れた鬼灯に隣に座るように促し話し出した

「覚えてるかな、私が元帥になりたてであんたがまだ補佐官になったばかりの頃」

「ああ。あの時のですか」

「そう私が下手打って、二三人取り逃がしたことあったでしょ」

「ええ、確かあの時私が始末しましたね」

「その後、あんたは血で汚れた手で私の手を取って、これで私も同じだって言ったのよ」

「貴女の手も血塗れでしたね、ですから同じだと言ったんです
そしてあなたが死ぬときは、私も一緒だとも言いました」

「あれね、すごく嬉しかったんだ」

「当たり前の事です、貴女を一人にはしません、貴女が自分の手を汚すなら私も汚しましょう
万が一死ぬことがあれば、私も死にます」

「私もよ、あんたに降りかかる火の粉は私が払うし
あんたが死ぬときは、同じく私も死ぬわ、地獄でも奈落の底でも一緒についていくからね」


「貴女がいるのならどこでも構いませんよ」

他には何もいらない

ただお互いが存在しあえばそれでいい

そう言って二人は唇を重ねあった






「結婚、するですって・・・?」

それから帰宅してきた残りのメンツは雪江が結婚すること、その相手を家に連れてきていることを聞いて、茫然としていた

「どんな男?」

「すごいイケメンで、姉さんの同僚だってさ」

「8年付き合ってたって、どうやったら続くんだ?」

どうにもイメージが湧かない

何せ記憶にある雪江と今見ている雪江があまりにも違いすぎる


特に幸村はひどく気落ちしていた

そして別れさせた両親も、今更ながら動揺している

「あら、お二人ともどちらへ?」

「夕飯は外で食べてくるから、2時間くらい出てくるわ」

「すみません、雪江さんを暫くお借りしますね」

件の加々知と雪江が浴衣姿で玄関に向かっていた

加々知は袖と襟が赤、地色は黒の襦袢も赤、背には逆鬼灯の絵柄

雪江は紺地に大ぶりの牡丹、纏められた黒髪には銀の簪を差していた

薄く施された化粧も相まって、艶やかな雰囲気が漂っている

二人が並ぶと、陳腐なセリフだが絵になるという言葉がしっくりきた

「行ってきます」

「お気をつけて」

「綺麗だったね、雪姉さんあんなだったっけ?」

「・・・・・・」

慶次と政宗、元親はもう何も言えなかった

特に慶次には言える言葉などない

あれだけ酷い事を彼女に言ってしまったのだから

理奈に近づくために雪江と付き合ったなどと、8年前の雪江が現在と同じ姿だったら果たして同じことを言えただろうか

彼女を変えたのはあの男

自分たちでは何一つ変えられなかった

そして雪江のことを何一つ知ろうとしなかった

妹たちも元カレ達にも、両親にも

その現実だけが彼らの前に突き付けられた夜だった
「初めまして、加々知と申します
今日はお祖母様にご報告したいことがありまして、失礼ながら連絡なしで訪問させて頂きました」

折り目正しく、一礼した黒髪の青年を祖母は好感をもって出迎えた

「お忙しい中でのご訪問、心より感謝いたします
ささ、中へお上がりくださいな」

「お邪魔します」

どこかほっこりした表情で、祖母は加々知をリビングではなく奥向きの客間に案内した

その後を付いて歩く雪江の表情もまた常になく柔らかかった

「あの人雪江姉さんの彼氏かな」

「良い男だね・・」

「雪江はああいう男が好みでござるか」

「目つきがすげえな・・毛利以上じゃねえか?」

幸村と元親がこそこそと囁いていると、客間からの会話が聞こえてきた

「それで報告したいこととは何で御座いましょうか?」

「はい、私は雪江さんと8年間お付き合いをさせて頂いております

いずれは入籍を考えておりますので、それに先立ってお祖母さまにご挨拶をと思いまして」

「私もさっきばあちゃんに、同じこと言ってたんだよ
まさか今日来るとは思わなかったけどね」

「仕事なら昨日全て終わらせました
今日明日は、休みですよ」

「やった」

「先ほど雪江からも聞きました
どうかこの子をよろしくお願いしますね
過去には本当に辛い思いをしてきた子です
今度は幸せになってもらいたい」

「ばあちゃん・・・」

「わたくしからもお礼を言わせてください
この子を、雪江を本来の姿に戻してくださってありがとうございました」

「お言葉、しかと受け止めました
必ず、雪江さんを幸せにします」

そう言って深く頭を下げた加々知

リビングにいた全員は、二の句が継げずにいた

8年付き合っていた

いずれは入籍

雪江の本来の姿

その単語ばかりが頭に焼き付いて離れない

ちょうど離れの用意ができたと使用人から報告があり、雪江と加々知はそちらに移動していった

祖母はまた自室に戻り、仏壇の前に座って亡き夫に報告した

「あなた、雪ちゃんが良い人を連れてきましたよ
結婚を考えている人ですって、今度は幸せになると良いですねえ」

そう言ってまた微笑んでいた
そのまま祖母の部屋で、久方ぶりに寛いでいた

実に3か月ぶりの休暇であり、近況報告も兼ねてやって来たのだった

「このケーキ美味しいね、ばあちゃん」

「気に入ったのなら良かった
仕事はどうだい?また危ないことしてないだろうね?」

「あー相変わらず忙しいね
外回りの任務はあんまりないから、大丈夫よ」

「加々知さんとはどうだい?
うまくいってるのかい」

「うん、いつも大事にしてくれてるよ
近々市役所行ってくる」

「今度は幸せになるんだよ、お式は挙げるのかい」

「ううん挙げない、その時間もないしね
でも写真は撮るよ、出来たらまた持って来る」

「楽しみだねえ、雪ちゃんもとうとう結婚か」

「今日と明日はここに泊まっていくよ
部屋は、離れを借りるけどいいかな?」

「良いよ、あそこはお風呂も付いてるし、台所もあるからね
立ち入り禁止にした方が良いかい?」

「そうしてもらえると助かる
仕事の電話とか掛かってきそうだし、そういうのは誰にも聞かれたくないから」

「上に立つのも大変だ
加々知さんは来るのかい、来るのなら離れに部屋を用意するよ」

「あー・・分からないな、来るかもしれないし、来ないかもしれない・・」

「じゃあとりあえず雪ちゃんの部屋だけ用意するよ
準備が済むまで、ここにいなさい」

「はーい」

一旦、祖母は自室を出てリビングへ向かった
そして使用人に離れの部屋を二つ調えるように指示を出した
雪江の部屋が一つ、もう一つは鬼灯の分
ああは言ったが、恐らくは彼も来るはずと祖母は見ていた
その場にいた全員に、二日間、離れへの立ち入りを禁じることも忘れない
同じことを残りの家人が帰ってきたら伝えるように言い置いて再び自室に戻っていった

「立ち入り禁止って・・・雪姉はそんなに会いたくないのかな・・」
「雪江姉さん・・・」

「しかも離れって、母屋から相当離れてるよね
明らかに、あたし達を避けてるよね」

「雪江・・・」

ピンポーン

妹たちが混乱している頃、また新たに来客があった
使用人が応対に出ると、慌ただしく祖母の部屋に走って行った

梨穂子が首をひねると、声が聞こえてきた

「大奥様、雪江お嬢様、お客様でございます」

「どなた?」

「加々知様と仰る方です、幸恵お嬢様の同僚の方で、御二方にお取次ぎ願いたいと」

「今行くわ」

雪江と祖母はすぐさま席を立ち、玄関へ向かった

リビングを急ぎ足で駆けていく雪江の顔には薄く笑みが浮かんでいた

「雪姉・・なんだか嬉しそうだね・・・」

紫苑が驚いた顔で、玄関を見やると残りの五人も激しく同意した

一体、この8年何があったかと本気で思ったという




番組終了後、お通夜のような沈痛な雰囲気で食事を摂る、神谷家の妹たちとその彼氏達

「雪江姉さん・・・何で・・・」

紫苑が掠れた声で呟いた

あんな楽しそうな顔見たことない

ちょっと悪そうな表情も、戦う時の冷たい表情も 怒った顔も

何より浴衣を着て加々知と一緒にお酒を飲んでいた時の、あの表情

あれは恐らく恋人に対しては、ああいう風になるのだろう

ここにいる全員、初めて見る物ばかりで理解が追い付かない

「たっだいまー!何この沈痛な雰囲気暗いよー」

そんな中凛子が帰宅してきた

実に二か月ぶりだ

「おかえり凛子姉さん」

「あ、そうだ雪江から連絡あって明日帰って来るってさ」

「明日?何時」

理奈が驚いたように尋ねた

「分かんない、ばあちゃんに会いに来るんだって
ちなみにあんたたちには用はないってさ
ま、当たり前だろうがね」

言いたいことだけ言って凛子は自室に引っこんでいった

「雪姉・・・」

沙奈は少し涙目で残りのおかずを口に運ぶ

彼氏達はもう理解の範疇を超えすぎて、言葉も出ないようだ

無表情で喜怒哀楽が全く分からない
無口で笑ったところも見たことがない
この8年間、何が彼女を変えたのか
それは両親も同じだった

その日は全員あまりよく眠れないまま朝を迎えたという

そして翌日 午後3時

呼び鈴が鳴り、住み込みの使用人が応対に出ると軍服を着た雪江が現れた

「雪江お嬢様?」

「ええ、とりあえずただいまと言ったほうがいいのかしら?」

「今までどちらにいらしたのですか、心配していたのですよ?」

「心配?心にもないことは言うものじゃあないわ
それよりばあちゃんは、部屋にいるの?」

冷たく微笑むと、祖母の部屋に案内させた

その際リビングを通るのだが、中にいた梨穂子、紫苑、理奈と政宗、幸村、元親の事は丸無視して通った
その表情はまさしく戦闘時のそれで、武の心得の無い妹たちでも分かるほど殺気立っている

「おかえり」
恐る恐る梨穂子が話しかけてみるも

「話しかけてこないでくれる?凛子姉さんから聞いてなかったの?
ばあちゃんがどうしてもって言うから来ただけだから」

タイミング悪く、雪江のスマホが鳴り出した
「はい神谷です」
出るや否や、顔が見る見るうちに険しくなっていく

「はあ?何やってんですかこのボンクラ!
いっぺん死んで来い!」

通話ボタンを切ると、不機嫌そのまま低い声で呟く

「あのクソじじい・・今度会ったら絞める!」

その様子に妹たちは震え上がり、やはり軍事機関に勤めているんだと現実を噛みしめた

とてもじゃないが、これ以上の質問は殺されかねない

「今までどこにいたでござるか?」

幸村が話しかけてくる

次の瞬間には、彼の耳の横に正確にダガーナイフが刺さっていた

「話しかけてくんなって言ってるでしょう?
その耳は飾りか、ああ?」

「まあまあそうかっかするものじゃあないよ
また倒れたらどうする気だね
お前たちも、自分のしたことを良く考えることさね
さ、雪ちゃんはこっちにおいで
おやつも用意してあるよ」

「ばあちゃん!ただいま」

騒ぎを聞きつけた祖母が駆けつけると、刺々しさは途端に消え穏やかな表情で、二人は部屋へと消えていった

「怖いよー、姉さん普段からああなわけ?」
紫苑が呟くと二人も深く同意した

「流石は軍人ってことだね・・・ああ怖かった」

「殺されるかと思った」

8年の空白の重みを身をもって知った妹たちだった
テレビ放送中です

「まず皆様がいらっしゃるこの場所ですが、入り口と出動時の出入口を兼ねております
この奥がそうです」

「結構大きいのですね」

「特注のドアですから
次は、私たち職員が普段過ごす場所をご案内します」

「はい」

エレベーターでフロアを移動し、いくつもドアがある場所に到着した

「ここは、私の執務室です
ここでは書類の決裁や部下の報告を受けたりします
出動しないときはたいがいここにいます」

「この隣は?」

「私の私室ですこの横が総司令の私室になります
ここ以外にも建物がありまして、そちらが職員の寮になります」

「おはようございます神谷さん
ご案内中ですか?」

心地よいバリトンボイスが聞こえると、目の前に鬼灯が立っていた

「おはようございます加々地さん、書類の手配ですか?」

「そうです、総司令がサボり気味で困ったものですよ」

「こちらの方は?」

「この方は、総司令の第一補佐官を務めておられます、加々地さんです
事務方のトップですよ」

「初めまして、加々地です
私は事務方ですが、彼女は実働部隊のトップです

ここは実質彼女の指示で回っているようなものです」

「すごい方なのですね」

「ですから、彼女がいなくなっては本当に困りますね
任務時はいつもヒヤヒヤしてます」

「そう簡単には死にませんから、加々地さんも急がないと・・・」

「そうでしたね、では失礼します」

「お気をつけて」

色々割愛中

「アラームが鳴り響いてますね」

「襲撃のようですね、皆様はここで待っていてください
カメラは秘書官に持たせますので絶対にここを動かれませんように」

「はっはい・・・」

右手にベレッタを持ち出動していった

向かってくる敵を一撃で始末し、その姿は舞うがごとし

見ている者を魅了する戦いぶり

武器をガンベルトに収める所作さえも美しかった

敵と相対するその顔は美しき修羅

慈悲も情けもなく葬り去る

血に塗れた立ち姿ですら不思議と色気があった

それからもプライベートでの浴衣姿、チャイナ服で寛ぐ姿、別の日に制服で部下に指示を飛ばす姿などが一時間半に渡って放映され、続きは来週の木曜日に放映というナレーションで終わった

余談だが、その全てにおいて穏やかな表情でいたこと、医局の白澤を鬼灯よろしく思いっきり容赦なくどつきまわしていた事、鬼灯と一緒の時は、とても女性らしい表情をしていたことは視聴者のみぞ知るところである

何も知らない神谷家の夕飯時

いつものように四人の妹、梨穂子、紫苑、理奈、沙奈、そして伊達政宗、真田幸村、前田慶次、

長曾我部元親、と両親が揃ってテーブルを囲み、テレビのスイッチを入れた

「さて本日はあの軍事機関TOXICの実態に迫るべく、当番組スタッフの総力を挙げて一年間の密着取材を敢行致しました
その様子をご覧いただきたいと思います、それではどうぞ!」

「すげーな、あの軍事機関だってよ、俺の頭じゃとても入れねーしな」
元親が愚痴ると、一斉に画面に釘付けになる

「おはようございます、お忙しいところ恐縮です」

リポーターが建物内に入り、受付に取り次いでもらい担当者が出てきた途端にその場が静まり返った

「おはようございます、朝早い時間からお疲れ様です
今日から一年間、よろしくお願い致します
皆様のご案内を申し付かっております、神谷雪江と申します」

軽く一礼して案内に入ったのは、家を出て8年間音信不通の姉、雪江だった

「よろしくお願いします、失礼ですが役職は・・・」

金糸で縫い取りがされた軍帽、豪華な上着、身に着けている装具、背後に控える二人の部下と思しき女性
どうみてもそれなりの地位に就いているだろう格好だった

「ああ、ここでは元帥を務めております
もしかしたら多少危ないかもしれませんけども、ご心配には及びません」

「そうでしたか、後ろの方々は?」

「私の秘書官です、二人とも優秀でいつも助けられていますよ」

穏やかに微笑むその姿は、とても記憶にある彼女の姿とはかけ離れたものだった

「立花です」

「桂木と申します」

彼女らの自己紹介が終わった後、早速案内して回る

「姉さん・・・」

愕然とした表情で呟く梨穂子

こんなに穏やかな顔で笑う人ではなかった

いつも無表情で喜怒哀楽の表情などなかった

「どうして・・・」

こんなにきれいに笑うのならどうしてもっと早く見せてくれなかったのか

他の皆も黙ったまま、画面を見つめていた
「お前って本当につまらねえ女だな」

「何を考えているか某には分からないでござる」

「俺は、理奈ちゃんと付き合いたいから、雪江に近づいたんだよ」

「Ah-梨穂子の方がおもしれえし、お前には飽きたんだよ」

どいつもこいつも、下らない男だった

しまいには両親まで、私にはもったいないから別れて妹と付き合えと言う

私はただ自分の思うように生きたいだけ

女らしくなかろうが、趣味が変わっていようが無表情だろうが、ただ自由に生きたいだけだ

それが理解できないのがあの連中だろう

だから18になって高校を卒業した後、家を出てTOXICに就職した

唯一の味方である姉さんたちと、ばあちゃんには話した

とにかく、今の私には力もない、何もない

強くなりたかった

私はあの連中と過ごすうちに、表情と感情を失くしてしまったようで何を言われてもされても何とも思わなかった

ただ無気力で虚しさだけが残っていた

今思えば、そんな状況を変えたかったのだと思う

就職した後、しばらくして鬼灯と出会った

高身長、イケメン、高収入、女子の人気も絶大な彼が、私のどこを気に入ったのかは不明だが

あれこれと話して、任務を一緒にこなすうちに付き合うことになった

今までになく満たされて幸せで、失くしたものを少しずつ取り戻せたようにも思う

そんなある日、TVの取材が来ることになり一年間の密着取材を受けた

その番組が放送される所から、この物語は始まる

別名 雪たんの復讐日記

始まり始まり