黒い箱から

ポロポロと零れ落ちる

キラキラと遠くまで響く

真っ直ぐに 世界を洗いながら。


私が買い取った時

既に貴方はキズだらけだったけど

その優しく鋭くて凍り付いたような音色が

私の物になった事が嬉しくて

嬉しくてしょうがなかった。

「貴女の名前は今日からジャンヌ。」

ジャンヌと名付けたのは…

清く正しく美しく

孤高のプライドを持ちながらも

常に人々に優しく

自らが信じるものに祈りを捧げ続けた…

そんなジャンヌ・ダルクのように志を高く持って奏でられるようにとの願いを込めて。

ジャンヌは楽譜通りに弾くのが好きではなく、私が楽譜を閉じると同時に鍵盤にのせた私の指を操って、いつも新しいフレーズを生み出す。

ジャンヌと出会うまで出来なかった事。

前のジャンヌの持ち主はどんな人だったんだろうね。

ジャンヌはその人が恋しい?

でも私は、いつでも気持ちを受け止めてくれるジャンヌに感謝してるよ。

嬉しい時も 悲しい時も

寂しい時も 楽しい時も

ジャンヌはいつでも真っ直ぐ。

ありがとね。
これからもよろしく。


変な時間に目が覚めた。

こんな夜は。

グラスに浮かんだ小さな氷達を眺めながらゆっくりと飲み干す。

水嵩が減ってゆくと同時に重力に負けてグラスの底で静かに溶け始める。

それを見ていたらひどく哀しくなってしまったので、もう寝る。

急にギュッと苦しい位 愛しくなるのです。

この瞳が この耳が この手が この足が

憎いと感じていたはずなのに

今はひどく愛しくて 心から大事に思えるのです。

時々素晴らしいモノを見つけてくれるこの瞳。

春の桜吹雪 風のカタチを教えてくれる。
夏の入道雲 隙間から差す光のカーテン。
秋のお色直し 主張し溢れる彩。
冬の煌めき 夜空に映る銀色の吐息。

耳が拾ってくるモノはガラクタのような、でも大切にしていたあの日の落とし物。

懐かしくて 恋しくて 涙が滲んでしまうのです。

美しいと心から思えるモノに触れられるこの手が愛しい。

恋しいと想いを馳せる場所に連れて行ってくれるこの足が愛しい。

凍えるように寒い真冬の夕闇
漂ってくる香りはご近所さんの食卓から。
子供達を優しく呼び寄せるお母さんの声がキッチンから聴こえる。

玄関前 無造作に置かれた三輪車。
少し開いた曇った窓ガラスから暖かな光
お風呂の時間かな…
子供とパパの無邪気な会話が湯気に響く。

団地の公園 砂場には
誰かな…お砂場セットの忘れ物。
ブランコがキーキー鳴って「また明日も遊ぼうね」って言ってる。

日常

忘れかけていたノスタルジィ達よ。