「このドレスに決めるわ」


画面の中で、花嫁さんが親族に囲まれながら涙ぐんでうなずく。


YouTubeでよく見ていたブライダルリアリティ番組。舞台は、ニューヨークの名店『クラインフェルドブライダル』。


何人もの女性たちが親族と共に、何時間も悩んで、何十着も試着して、金額交渉もして…

ようやく“運命の1着”にたどり着くそのプロセスが、私は大好きだった。


いつしか私は思っていた。


「私も、ここでドレスを買いたい」


でも、それは叶わない夢だった。

結婚する予定もないし、ましてやニューヨークに行く機会もない。

そんな未来、想像すらできなかったから。




ところが人生は、時々すごいタイミングで動き出す。


結婚が決まった。

式を挙げる気はなかったけれど、頭のどこかで**「ドレスだけは…」**という思いが消えていなかった。


そして、コロナが明けて数年ぶりの母との旅行。

「今年はどこ行こうか?」と聞いた私に、母はあっさり言った。


「ニューヨーク、行っておきたいわ」


——まさか、まさかの展開。

え、クラインフェルド、行けるかもしれないじゃん!




そこからの私は、もはや本気モード。


番組で何百回と目にした、あの店のホームページを開いて、調べまくった。


・そもそも買えるのか

・1着いくらぐらいするのか

・予約の方法

・何を持っていけばいいか


でも、壁はすぐに現れた。


英語しかない。予約フォームの項目が多すぎる。

そして何より、「アメリカ国内の住所が必要」という一文に心が折れそうになる。


やっぱり無理かも——

そんな諦めがよぎった、そのとき。


(つづく)