…*…*…*…
___変わり出したのはあの日からだ。
値打ちものの番傘を手にして帰ってきた私を見る両親の顔は15年生きてきて始めて見るもので。
日を追うごとに見えない境界が張られていた。
普段と変わらないはずの食卓に活気はない。だけど口を開くのはどうも出来なかった。
開いたら最期、
壊れてしまうような気がして____
『立夏』
名前すら呼んでもらえないまま、私はいつもどおり学校に行き、そして帰宅するはずだった。
「一条さん。校長室に来なさい」
視線が痛い。
最近可笑しなことばかりだ。
何かやらかした覚えもないのに、容赦無く視線が突き刺す。
___どうしてこんなことに…
*…*…*
「___と、いうわけで本日を持って君は我が校を“転校”という形で離れることになったそうだから。これからも是非頑張ってくれたまえ」
長々と訳のわからない説明を聞いて混乱した頭に鈍器で殴られたような衝撃が走った。
___は?転校?
校長の方は私が理解しているという定で話しているようだが、私は何1つ知らされていない。
可笑しい。
ありえない。
なんで、
そんな急に?
なんで。
なんで?
「いやー、まさか君だとはね。驚いたよ」
「素晴らしいじゃないか!たくさんの苦労はあると思うが君なら大丈夫だろう」
___嬉しそうな教師達の会話なんてどうでもいい。
「あのっ!!」
募りに募ったのは“怒り”だった。
「一体どういう事なんですか?私は転校なんて聞いてません!だいたいなんですか!?『なったそうだから』って!誰がそんな事言ったんですか?!ちゃんと説明してください!!」
一気に話したために少し息が切れる。
聞いてない。なんだそれは。
一体何が起こったというのだ。
夢なら早く覚めてくれればいい。
私はこんなの、___知らない。
「【一条家】。古来、この日本において大きな権力を持っていた五つの家柄【五摂家】の一つ」
___この声には覚えがあった。
「現在にもその血筋は存在し、君はその正式な一族後継者」
___嫌な予感はしていた。
「理解したか?一条家次代当主、一条立夏」
五月雨。今宵の雨。
酸味が口内に蘇る。
紅い番傘の人。高貴な番傘。
可笑しな両親。
___全部、繋がってる。
「と、いうわけで迎えに来てやったんだ。車まわしてっから行くぞ」
腕を掴まれる。
私はその手を振り払った。
「ふざけないで!!何が五摂家⁈私はそんなところの娘じゃない!唯の【一条立夏】だよ!勝手なこと言わないでこの性悪クランベリー野郎!!!!」
「はぁ⁈」
___ふざけるな。
そんなわけない。
じゃあ今までの人生は何だったんだ。
私の両親は金持ちでも高貴な家柄でもなんでもない。
唯の一般家庭だ。
___「その人の言ってる事は本当だ」
声の方を振り返る。
そこには両親の姿があった。
険しい表情で此方を見るその目は真剣そのもので、言葉も必要ないほどに語っていた。
嘘でもなんでもない。真実を語る目。
___結局、全部嘘だったんだ
周囲の音が遠ざかっていくのを感じて私はただ、立ち尽くすしかなかった。
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