『Journal of Wind Rider あんじ』 -20ページ目
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あたオト:バイクに乗りたいワケ。

『もっと遠くへ行きたい』




それがあたしの一番の想い。







あたしは、小さな頃から夢想家で、

学校が終ると、


真っ直ぐ、家路につく。

ランドセルをポイッとほおると、


床にゴロリと横になり、


窓の外の高い空を見上げては、


角膜に泳ぐ埃をぼんやり眺めてる。







『もっと遠くへ行きたい』







そう想いはじめるのは、


いつの頃だろうか。

たぶん、


それら、頭上高くうねる大海原を、

ただ、なんとなく見つめている頃なのかもしれない。







あの頃のあたしは暴れん坊将軍が大好きで、

気品ある馬を駆るのに憧れる。


真っ青に晴れてキラキラ輝く砂浜を、


艶の良い真っ白な馬で駆けていく。


いつかそんな自分になりたいと想ってる。








そうしてあたしは、


もうすぐ三十になろうとしていた。

いったいあたしは、何をしてきたのだろうか?


この頃のあたしは、自分の甘ちゃんぶりに、


嫌気が差していた。







家族に甘え、友人に甘え、会社の人たちに甘え、


そして、束の間の時を一緒に過ごした見知らぬ人々にも甘えていた。


そう思えたことさえ、最近のことで、


あたしは、生きる気力さえ、ほとんど持ちえなかった。


過労になろうが、病気になろうが、死んだらそれもそれでいい。


そういう考えが、頭の中に、充満していた。







あたしは、無性にバイクに乗らなければならないと考えた。


それも400ccなんかじゃ足りなくて。







『もっと遠くへ行きたい』







ただ、それのみが、


あたしの進む、行き先で。

200kgを超える巨体に物怖じもした。


軽くアクセルをひねるだけで、


ぐわっと置いていかれそうなパワーにも慄いた。







でも、あたしは、ようやく、目が覚めた。


コイツを駆るのは、あたしなんだ。


そう思ったら、スッと、すべてを理解した。







あたし、自分のために生きてない。







誰かがやってくれるはず。


誰かがわかってくれるはず。


誰かが。







あたし、自分のことを他人にまかせて生きていた。


というか、生かされていた。


そういうことを、何気ない交差点の右折で思い知らされた。


このままの気持ちのままで、


大型バイクになんて乗っていたら、

あたし、確実にあの世行きだと思った。







それは、嫌だ、と思った。




遠くへは行きたい。




でもそれは、生きて、この体で世界のすべてを感じることだ。




あたしには、やるべきことが、たくさん、残っている。







『江戸っ子べんべ乗り、あんじ♪』

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