今日書くのは、現在の「マジシャン緋色」の営業スタイルが生まれた瞬間、メンパブ時代のお話です。
「ディズニーマジック」で、自分の演じるマジックにスランプを感じていたことを書きました。
お客様をただ驚かせるマジシャン(手品師)ではなく、夢と感動を与えるマジシャン(魔法使い)になりたい──
そこで〝夢と魔法の国〟の心理戦略を学ぶため、秋田から千葉にある東京ディズニーランド(以下TDL)へと足を運んだのです。
TDLはテーマへのこだわりと情熱によって、建物やアトラクションはもちろん、目に届かないような小道具まで徹底的に作り込んでいました。
そしてパーク内の至るところに様々な工夫や仕掛けを施し、日常的なものは徹底的に排除して、非現実の世界を見事に具現化していました。
幸い俺が働いているメンパブも、現実から遮断された特殊な空間です。
照明が落とされ、黒を基調としたシックな内装に囲まれた店内。
カウンターのボトル棚と座席を仕切るガラスは柔らかなブルーの光に照らされて・・・

心地いいBGMが流れる中、お酒を飲みながら男性スタッフとの会話を楽しむお客様。
このかなり異質な環境によって、お客様は非現実的な出来事を受け入れるのにさほど抵抗がない心理状態になっています。
「非現実的な現象がごく当たり前に起こる世界」はすでに整っている。
俺は環境に恵まれている!(´∀`*)
これがTDLで得たひとつめの発見。
そしてもうひとつ、俺にとって一番の収穫だったのは、モノではなくココロの在り方。
TDLでミッキーが魔法を使うことに違和感を覚える方はいますか?
恐らく何の疑いもなく受け入れているはずです。
それはパーク全体がステージで、ミッキーを始め清掃員に至るまで全てのスタッフがキャスト(俳優)だから。
演じるのは、溺れたくなるような夢一杯のストーリー。
そこに入り込んだゲストは〝だまされる快感〟を味わい、錯覚に酔いしれるのです。
夢の国の住人を演じるキャストの原動力になっているのが、ウォルトが掲げた「ハピネスを提供する」という理念。
全てのゲストをVIPと捉え尽くすことによって承認欲求を満たし、心地良く過ごしてもらう。
そして期待に応え満足させるだけでなく、予想以上のサービスをすることで〝感動〟を生み出す。
ゲストの笑顔やお礼の言葉はキャストの達成感と高揚感に繋がり、再びゲストへと還元される。
子供はもちろん大人まで虜にしてしまうTDLの魔法は、アトラクションではなく〝人の心〟が造り出していたのです。
大掛かりな舞台や多彩な衣装、最新技術を駆使した照明や音響etc...
それらに頼らなくても、大人をその気にさせる〝大人だましのエンターテイメント〟は実現できる!(≧▽≦)
人生初のTDLは、とても有意義な体験になりました。
俺が環境に恵まれながらそれを生かし切れていなかったのは、接客とマジックの演技を切り離して考えていたから。
お店全体をステージと考え、スタッフとしての自分とマジシャンとしての自分を融合させれば、全てのお客様が〝見る人〟から〝参加する人〟になり、心を動かすことが出来るはず。
例えるなら、お店がTDLで俺はミッキーマウス。
ひとつひとつのマジックはアトラクション。
これからはお店での俺のキャラをメインにして、マジックはそれを伝える手段として使おう!!
俺はまず「今から不思議な現象をご覧にいれます」という言葉でマジックを始めることを辞めました。
魔法使いは常に魔法使い。
前置きなどする必要はないのですから。
魔法は、お客様が店に足を踏み入れた瞬間から始まります。
客層の大半を占めていた女性客に対して、俺は令嬢に仕える執事のように振る舞いました。
店での服装もそれまでのカジュアルなスタイルからブランドスーツにチェンジ。
接客の質を上げると同時に、お店をより〝非日常的な空間〟にするためです。
「いらっしゃいませお嬢様。大人のテーマパークへようこそ」
深々と頭を下げて出迎え、席までエスコート。
お客様がイスに座ると同時にトーション(ひざ掛け)をかけます。
システム説明時や注文を受ける際は常に片ヒザを床につけた体勢。
そう、お姫様に接する王子様のイメージです。
秋田の片田舎のパブでそんな接客をされると、ほとんどのお客様が戸惑いました。
でも、その戸惑いが快感に変わるのにそれほど時間はかかりません。
セレブ扱いされて嫌がるお客様はいませんからね♪
ホテルで働いた経験を存分に生かし、他店では絶対に味わえないような高いホスピタリティを目指しました。
次に変えたのは、テーブルに呼ばれた際のトーク。
俺はすぐにお客様の名前を聞き、意識して名前を呼ぶようにしました。
そうすることで堅苦しさがだいぶ和らぎます。
そして共通の話題などで会話を弾ませたあと、お客様の〝夢〟を聞きました。
人それぞれ色々な夢を持っています。
夢がない人なんて一人もいません。
子供の頃は必ず夢があったはずです。
“大人になった今、夢とはほど遠い・・・”
“現実はそんなに甘くない”
“とっくに諦めた”と言う方もいました。
そこでこう言います。
「夢は逃げません。逃げるとしたら、それは自分自身です」
夢は必ず実現します
その為に必要なことは2つだけ
諦めずに願い続けること
そして・・・
叶えた自分を想像することです
イメージする力“想像力”は
ものを造る力“創造力”に繋がります
証明してみせましょう
俺は小さい頃、いつも独りぼっちでした
寂しいときは、物に話しかけていました
(紙ナプキンを一枚丸め手のひらに乗せる)
魔法使いになって物に命を吹き込んで
友達になりたいと思っていました
(丸めた紙ナプキンに「元気?」と声をかける)
願い続ければ、こんなことも出来るんです
(紙ナプキンが踊り出し、腕の上を跳ね回る)
○○さん(お客様の名前)、さぁ手を出して
「おいで」と声をかけてあげて下さい♪
(お客様が呼ぶと紙ナプキンがその手に飛び移る)
これは俺が得意な〝フローティングローズ〟というマジックの冒頭部分です。
会話の流れで自然と演技に入っています。
マジックを演じるための会話ではなく、お客様との会話の中にマジックを交えたのです。
このあと一旦紙ナプキンを広げ、今度はバラの形を作りながら
「これは綺麗なバラです。真っ赤な花びら…緑の葉…誰が何と言おうとバラです(笑) ○○さんへのプレゼントですよ」
と言います。
完成した紙ナプキンのバラをお客様の顔に近付けると、不思議なことにバラの香りが漂ってきます。
ビックリしているお客様に向かってもう一度言います。
「想像して下さい・・・これはバラです」
手のひらに乗せた紙ナプキンに魔法をかけると、ゆっくりと空中に浮かび上がりました。
俺はジャケットの内ポケットに手を入れすぐに出します。
その手にはいつの間にか火の点いたマッチ棒が握られています。
マッチの火を近付けると空中の紙ナプキンは一瞬炎に包まれ、次の瞬間には本物のバラに変わっています。
「どうぞ、プレゼントです♪信じれば夢は必ず叶いますよ」
そう言ってそのバラをお客様に差し上げます。
想像が現実化する光景を目の当たりにしたお客様は、この体験を通してきっと大切な何かに気付いてくれることでしょう。
物を操るマジックが好きな俺は、お客様の目の前で色々な物を自在に操りました。
ノリのいいお客様には、ある物を擦ると立ち上がるマジックを見せながら「想像して下さい・・・」と言って下ネタに走ることもあります(笑)
あと好きなのはお金を使ったマジック。
お金が嫌いな方はいませんから、とてもスムーズに演じることができます。
例えば、お客様に千円札を一枚お借りして、それをテーブルの上に置きます。
「お金には意志があります。呼んでみて下さい」
お客様が呼んでも反応がありません。
「ちゃんと名前を呼んであげないと来てくれませんよ」
何人かが“野口さん”と呼びますがやはり反応がありません。
俺が“福沢さんお越し下さい”と声をかけると、お札は宙を舞い俺の手の中に飛び込みます。
「福沢諭吉は一万円札だし!それ千円じゃん!」
というツッコミを聞きつつ手にしたお札を四つ折りにして片手に持ちます。
ちょうど人物画が見える面を見せながら「これは誰ですか?」と聞くと、お客様は当然「野口英世」と答えます。
「顔をよく確認して下さい」と言いながらお札を持った手をゆっくりと振ると、野口英世の顔が福沢諭吉に変化します。
すぐに手渡して確認してもらいますが、正真正銘の一万円札。
「もっとお金を増やしたいですか?」と聞きながらもう一度そのお札をお借りして、両手で掴みます。
それをパンッ!と一気に破ったかと思うと、二枚の一万円札に増えています。
「これは魔法です。魔法を使う時は忘れちゃいけないことがあるんですけど、分かりますか?」
イヤな予感に気付いたお客様が言います。
「もういいから私のお金返して」
俺は二枚の一万円札を片手に乗せて言います。
「では借りたお札をお返ししますので、名前を呼んであげて下さい」
お客様が“諭吉さん!”と呼んでも反応ありません。
「おかしいですね。顔をよく確認しましたか?」
二枚を重ねて折り畳み、人物画の面を見せながら聞きます。
「ちょ・・・待っ・・・!!」
構わずにゆっくりと振ります(笑)
一枚の千円札に戻ったら、お客様にお返しします。
「そう、魔法は最後には解けてしまうんです」
文字に起こすとかなりの量になってしまうので内容はこの辺にしておきますが、マジックを演じる際に必ず心掛けていることがあるのでそれを書きます。
〝不思議な現象を見たお客様の心を放置しない〟ということです。
マジックが終わったら『これでおしまいだ』ということをしっかり伝えないといけません。
会話の途中でお客様の関心をマジックに移したのだから、再び会話に戻してあげる訳です。
そのために最後は必ずこの言葉で締めくくります。
「魔法を使えばどんなものでも思い通りに操れますが、ひとつだけ・・・どうしても操れないものがあるんです」
お客様「え?何?」
「・・・女性の心ですorz」
ここから失恋話や恋愛の失敗談などに持っていくと、お客様は会話に関心を戻してくれます。
そうしないといつまでもマジックの途中だと勘違いして、俺の一挙手一投足に身構えて疲れてしまいますからね。
「もっと見せて」と言われたとしても、一度にたくさんのマジックは演じません。
不思議に慣れてしまうと驚きも薄くなってしまうので、あえてお断りします。
「今日はマジックポイントを使いきっちゃいました」
と言えばそれ以上無理は言われません(笑)
自分らしさを表現する手段としてマジックを演じるようになってから、仕事が楽しいと思えるようになりました。
そして俺のファンだと言って通って下さるお客様も現れ始めます。
ある日、地元で名の知れた事業家(年輩の男性)がお一人様で来店しました。
スタッフの話では、秋田に住みながら全国に広い人脈を持っている方だとか。
カウンターに座ったそのお客様は、テーブル席で団体の女性客相手にマジックを交えながら会話する俺をじっと眺めていました。
飲み物を作るためにカウンターへ行き挨拶をすると、ふいにこんな話を始めました。
「会社の若い連中が最近ここに通うようになって、何がそんなに楽しいのか聞いたらすごく魅力的なマジシャンがいるって言うんだよ。接客を見せてもらったが君はなかなか素質がある。東京でも充分通用するはずだ。どうだ、こんな所で満足しないで東京に出てみないか?」
その時テーブル席の方から俺を呼ぶ声が。
「モテモテだなぁ(笑)お客さんがお待ちだ。続きはあとで話すから早く行ってあげなさい」
俺はテーブル席に向かいながら、今まで一度も意識したことのない『東京』という響きに、心が踊るのを感じていました。
この出来事をきっかけとして、東京へと移り住んだ俺。
アジア最大の歓楽街〝歌舞伎町〟で再出発を図る。
ネオン瞬く大都会の夜の街でマジックは通用するのか?
そして華やかな世界の裏側で俺が見たものとは・・・?
次回「ホストマジシャン ホスト新生」
この次も、サービスサービスゥ♪