僕がマジックを始めたきっかけは、子供の頃にTVで見たMr.マリックの超魔術だというのは先日書いた通りです。


それから色々なマジックの本を読み練習して、中学生になった僕は学校で友達にその成果を披露するようになりました。




僕はその頃、メンタルマジック(超能力のように見えるマジック)ばかりを好んで演じていました。

そして自分のやっていることがタネのあるマジックとは言わずに「超魔術」だと言っていました。


僕がマリックさんの超魔術(マジック)を見て衝撃を受けたように、そう言った方が見た人に強い印象を与えられると思ったからです。



当時周りにはマジックをする人がいなくて、ちょうどMr.マリックブームだったこともあり、休み時間になると僕の超魔術を見に来る生徒が増えてきました。




そんなある日、理科の授業中にクラスメイトの1人が「先生!○○君(僕)の超魔術を科学の力で解明して!」と言い出しました。


興味を示す先生。


授業が終わり、教壇を挟んで向かい合う先生と僕。
他のクラスからも野次馬が集まり、休み時間の理科室は黒山の人だかりとなりました。


僕が見せたのは、マッチ箱が手のひらの上で動いたり立ち上がったり、箱のフタがひとりでに開くというネタ。

周りは360°囲まれていて下からのぞきこむ生徒もいましたが、何とか成功しました。


それを見た先生がひと言。

「科学で解明できない不思議なこともあるんだなぁ…」


この日を境に僕の噂はさらに広まることになりました。




僕の通っていた中学校には野外研修といって、山の中に建つ「少年自然の家」という施設に泊まりながらオリエンテーリングや動植物の観察をするという行事がありました。
林間学校といえば分かりやすいでしょうか。


夜はキャンプファイヤーがありクラス毎に出し物を披露するので、野外研修の1ヶ月前に演目を決める学級会が開かれます。


歌やダンス等いくつかの候補から多数決で決めることになったのですが、圧倒的多数で決定した演目は…


『超魔術ショー』でした。


もちろん演じるのは僕ひとりです。


他のクラスが全員で練習を積んだ出し物を披露する中、このクラスはたった一人にその大役を任せようというのです。


悩む間もなく学級会は終了し、後は1ヶ月後の本番を待つのみとなりました。




屋外で約300人の生徒を相手にマジック…

普段のようなクロースアップマジック(少人数を相手に目の前で行うマジック)では通用しません。


もっとスケールの大きいイリュージョンでなければ…


キャンプファイヤー会場は観客(他のクラスの生徒)がぐるりと周囲を取り囲むため、後ろから見るとバレてしまうようでは使い物になりません。




イリュージョンを考える為に、僕は本屋へ出向きました。

町中の本屋を巡り、20~30冊のマジック本を読み漁りました。


そして「これなら…」というものを見つけると、クラスメイトの3人を助手として誘い、さっそく練習を開始しました。



僕が選んだのは「人体浮遊イリュージョン」です。



頭と足をイスに乗せた状態で横たわる助手に演者がパワーを与えると、地面から1m以上の高さに空中浮遊するというものです。




実際にやってみると、この演技はかなり大変なことが分かりました。

助手が宙に浮く以前に、イスに乗せた頭と足だけで体重を支えながら仰向けの体勢を保つこと自体が困難なのです。


一番体が小さく体重の軽い友達にその役を頼み、あとは少しずつその姿勢を保つ時間が伸びるよう頑張ってもらいました。


こうなるともうマジックの練習というより筋力トレーニングです(笑)


僕と残る2人の助手は、演者の合図でタイミングよく頭側のイスと足側のイスを取り去る練習を重ねました。


本番では宙に浮く助手の体に布を掛けるので、ホームセンターで軽い生地を購入したりと着々と準備を進め、いざ本番に挑みました。




野外研修が始まっても、本番で上手くいくかという不安と初めて大勢の前で何かをする緊張とで、胸が張り裂けそうでした。




夜になりキャンプファイヤーが点火されると、各クラスがそれぞれ趣向を凝らした出し物を披露し始めました。


そして…いよいよ僕のクラスの番です。


研修のしおりには各クラスの出し物タイトルと一緒に「超魔術ショー」の文字が異彩を放ちながら並んでいたので、生徒達の間で話題になっていたようです。



会場がにわかに騒がしくなりました。



用意しておいたMr.マリックのテーマ曲が流れ、クラスのみんなの固まりが左右に割れると、その間から袖を捲りマリックさんになりきった僕が姿を現します。



浮き役の助手がイスとイスの間に横たわります。


その体に他の助手が布を掛けます。



僕は1mほど離れた所からパワーを送るポーズ。



…と、ここで思わぬ事態!



野外のため布が風であおられて、横たわる助手の体が上手く隠れていません(汗)


途中でやめる訳にもいかず、敢行。


「はっ!!」という僕の掛け声とジェスチャーに合わせ、布に覆われた助手の体が少しずつ浮いていきます。


それと同時に他の助手達がイスを取り去って…



え!!!??



なんということでしょう…



緊張した助手の1人がイスを取り去った直後に転倒。

その弾みで浮遊中の助手の体に掛かっている布がずれ、一部の観客に中身が見える状態に!!


客席からは嘲笑と「見えてるぞー!」という野次が聞こえてきます。


恥ずかしさと屈辱感に耐えながら演技を終え、僕と助手3人はそそくさと退散しました。




その後、布の中身を見た一部の生徒に他の生徒達がタネを聞きに行ったりしたようですが、正直あまり覚えていません。


「何もかも終わった…」という虚しさだけが心の中にしこりのように残りました。



それから僕の気持ちは徐々にマジックから遠ざかっていきました。



そして週刊誌で「Mr.マリックはイカサマ師!」などという記事が目立つようになると、周囲の超魔術に対する関心も薄れてきて、僕がマジックを披露する機会もなくなりました。

僕の人生における第一次マジックブームの終焉です。




その後工業高校に進学し、不良仲間の影響でバイクに心を奪われた僕は、不可思議な走行で一般車を惑わす公道のマジシャンへと変貌を遂げました(笑)


何年か後にあることがきっかけで再びマジック熱が甦るのですが、その話はまた後ほど。




今改めて思い返すと、あの日の出来事が僕をここまで育ててくれたのかな…と感じます。


あれだけ大勢の前で失敗を経験すると、ちょっとやそっとの失敗は怖くなくなります。

それにマジックがあったから、大人しい性格だった僕があんなに注目される存在になれたんです。

人前で何かをする度胸も養うことができました。



僕の人生は、常にマジックと共にあったと言えます。

これからもマジックを愛し、楽しみながら生きていきたいと思います(^-^*)