これまでのブログで、俺がマジックを始めたきっかけとマジックに明け暮れた中学時代の話をしました。

高校入学を境にその熱は冷めてしまうのですが、あるマジシャンとの出逢いにより、マジックの魅力を再発見することになります。

今日は、生涯の師匠とも言えるマジシャンとの出逢いを書きたいと思います。





高校を出て社会人になった俺は、色々な職業を経験しました。

ホテルマン、フィリピンclubチーフ、運送会社のドライバー、花屋の店員…

そして建設会社に就職すると、国家資格を取得してサラリーマンとして落ち着きました。



安定した将来を約束された生活…何の不自由もありません。

でも、心はいつもこう叫んでいました。

“このままでいいのか?敷かれたレールの上を歩くだけのつまらない人生でいいのか?”




その頃の俺は、仕事のストレス発散の為に週末は必ず部下を連れて飲み歩いていました。

普段男ばかりの職場なので、行くのはキャバクラやスナックといった女の子がいるお店です。

最初は酒を飲みながら女の子との駆引きを楽しんでいるだけで満足でしたが、そのうち物足りなく感じるようになりました。


職歴を見ても分かる通り、俺は飽きっぽい性格のようです。


そこでお店の女の子相手にマジックを見せてみました。


当時住んでいた地元にはマジックバーもなく生でマジックを見たことが無い人ばかりだったので、確実にウケました。


中学時代の趣味が今になって役に立つなんて!!


女の子達の「すごーい!」という反応が見たくて、飲みに行く時はマジックのタネを持ち歩くようになりました。



人が驚く顔や呆然とする顔を見ると、優越感が得られます。

そして注目されることで、自己顕示欲が満たされます。

俺はその快感が病みつきになってしまいました。



そうしているうち、ふと思い付きます。

“俺はなぜお金を払って人を楽しませているんだろう…これを仕事にした方がいいんじゃないか?好きなことをしてお金も稼げる!!”



建設業にはモノを造り上げる達成感がありますが、華やかさには欠けていました。

接客業なら毎日が舞台のようなもの。華やかだしマジックの腕も上がるはず。



俺は心を決めると会社を退職し、十代の頃一年ほど経験したフィリピンclub以来となる水商売の世界へと、再び足を踏み入れました。





働く店はすぐに決まりました。

地元で一番有名なメンパブ(メンズスタッフのみが在籍するパブ)です。

客層は大半が若い女性。

仕事に慣れると、さっそくお客さん相手にマジックを披露し始めました。



常連客の多い店だったのでいつも同じマジックでは飽きられてしまいます。

レパートリーを増やす為、海外からタネを取り寄せるようになりました。

給料のほとんどがマジックのタネに消えていきました。



入店して2~3ヶ月も経つと、噂を聞きつけて来店するお客さんが増えてきました。

店のオーナーの耳にもそれが伝わり、系列店への出張マジックを頼まれるようになりました。

キャバクラで年配の男性客相手に披露することも度々。




その頃から、俺は何か違和感を覚えるようになります。

“自分がやりたかったことは本当にこれなのかな?”




俺のマジックを見ると、大抵のお客さんは驚愕します。

「すごい!!」「なんで!?」
…でも、それだけ。

それ以上でもそれ以下でもないんです。


『マジックをしている俺』ではなく、『俺が見せたマジック』に興味を示すだけ。

だからひと通りマジックを見せ終わると、お客さんの興味は俺から離れてしまいます。



そして悩みだったのが「タネを教えて欲しい」という反応が多すぎること。

酔っ払い相手だとそれを上手くかわすのが難しく、最悪の場合険悪な空気になってしまいます。

マジックを披露する回数が増えるほど、精神的負担も大きくなりました。



俺がマジックに感じていた魅力って何だったんだろう…

もうそれすらよく分かりません。


好きなことが出来て楽しいはずの毎日が、ストレスに変わってきているのを感じました。





そんなある日、ふと立ち寄った中古ショップで1本のVHSビデオが目にとまりました。

パッケージには見覚えのある外人の顔と聞き覚えのある名前。

俺がまだマジックを知らなかった小学生の頃、TVで何度か見たことがある男でした。



偶然にも手にしたそのビデオの男とは…



グランド・キャニオンの上空を浮遊し、万里の長城の壁をすり抜けた奇跡のマジシャン。

ニューヨークでは自由の女神を、ヨーロッパではオリエント急行を観客の目前で消した希代のイリュージョニスト…



そう、あの『デビッド・カッパーフィールド』でした!




彼は60億円の年収を得て米フォーブス誌の著名人長者番付に常連として名を連ねる、20世紀最高のマジシャンです。

そしてショービジネスの本場アメリカで20年以上トップの座を維持し、年間500回を超える公演を全世界でこなした、歴史に残るエンターテイナーでもあります。



そのビデオは、2001年のデビッドの日本公演に向けて2000年にCOPPERFIELD STUDIO JAPANで制作された『SUPER ILLUSION』でした。

4000円で販売されたそうですが、中古ショップでの価格は380円。

彼の日本での知名度の低さ故の安さでしょうが、それは同時に日本のエンターテイメント文化のレベルの低さを露呈しているように思えます。



と、偉そうなことを書いてますが…

俺もその時は「安いしヒマ潰しにはなるだろう」位の気持ちで買いました。



ビデオの内容は米国CBSで1995年に放送されたTV特番「15 YEARS OF MAGIC」の焼き直しで、当時の婚約者クローディア・シファーがナビゲーターとしてデビッドの15年間のマジックを振り返るというもの。

自由の女神消失や万里の長城壁抜けはなんとなく記憶にありましたが、デビッドのイリュージョンをちゃんと見るのはこれが初めてです。



ビデオは彼のこんな話から始まりました。



『マジックは僕のすべてだ
マジックを愛している

僕は独自の世界を持っている
時にはセクシャルな演出もする

ただの手品じゃなく、見ている人を別世界へ連れていき、疑いを吹き飛ばす

驚かせるだけでなく、感動させるんだ

観客と共有するのは、ロマンチックや笑いやスペクタクル
時には大胆で官能的な瞬間だ』



俺はもうこの時点でTVに釘付けです。


彼なら俺がいま抱えている悩みを解決する道標になってくれるかも知れない!

本当にやりたかったことを教えてくれるかも知れない!!



画面の中では数々の脅威的なイリュージョンが繰り広げられていきます。

どれも10年以上前とは思えないほどクオリティが高く、芸術性も高いマジックばかり。

BGMも効果的に使われていて、曲と演技の絶妙なシンクロに鳥肌が立ちました。



普段はTV等でマジックを見るとついタネを考えるクセがあるのですが、もうそんなことはどうでも良くなってきます。

幻想的なショーに心を奪われ、映画を観るようにその世界へ引き込まれてしまいました。



ビデオの最後の演目は、ブロードウェイの舞台で初披露したというイリュージョン「Snow」



『初めてこの世にある魔法を知ったのは、8歳の時だ

僕はその時まで、雪というものを見たことがなかった
だからその年の冬、両親から「クリスマスプレゼントに何が欲しい?」と聞かれて、「雪が見たい」とお願いしたんだ
両親は苦笑いしていた

僕は毎日祈った

クリスマスイヴの夜、窓辺で毛布にくるまりながら雪を待つ
いつの間にか寝てしまったようで、ふと目を覚まし窓の外を見た

すると静かに夜空から、真っ白な花のようなものが次から次へと落ちてきて…
夢のような光景だった
外へ出ると、冷たい雪が僕の顔や手に触れては消えた

それは魔法そのものだった

大人になってもときめきを忘れちゃいけない
子供のように信じて望めば
不可能なことはない』



そんな前振りから始まるこのマジック。


デビッドがステージ上に置いてある毛布にくるまると、少年の姿に戻ってしまいます。

そして少年になったデビッドが上を見上げると、ステージ上に雪が舞い落ち始めました。

両手を広げゆっくりと回りながら、嬉しそうに笑うデビッド少年。

いつの間にか会場中の客席にも雪が舞い散っています。

それを見上げる観客達の子供のような笑顔が印象的でした。

デビッドが大人の姿に戻ると、会場から惜しみないスタンディングオベーションが贈られます。



俺はこのロマンチックなショーを見て、感動のあまり泣いてしまいました。




そしてもうひとつ、人生を変えるほど強烈な印象を残したのが、究極の浮遊イリュージョン「Flying」

この演目には、彼がマジックをする理由、マジックによって伝えたいことの全てが込められています。



『飛びたかった
浮くんじゃなくて飛ぶんだ
翼もワイヤーも、カメラトリックもナシで…
実現するまでに7年かかった


子供の頃、僕はいつも夢ばかり見ていた

近所に同じ年の友達がいなくて一人ぼっちだった
でも、夢を見ていれば寂しくなかった

僕の一番の夢を知っているかい?
空を自由に飛ぶことさ

気球や飛行機ではなく、空気をけって風に乗って飛ぶんだ

今でも寂しいとき、この夢を思い出すと、悩みや不安をかき消してくれる

答えは空に。。


みんな夢を持っているのに努力を忘れてしまってる

僕は飛びたかったからあきらめなかった』



そう言うと、ステージに寝そべるデビッド。

両手を上げ宙を掴むように引き戻すと、仰向けのまま空中へ浮かび上がります。

回転する大きな輪をくぐらせても、透明な箱の中に入っても浮遊を続けるデビッド。

そのままステージ上を自由自在に飛び回り、さらには観客の女性を抱えて飛ぶのです。



画面にはこんな一節が…


“COME TO THE EDGE”HE SAID.
 THEY SAID“WE ARE AFRAID”
“COME TO THE EDGE”HE SAID.
    THEY CAME.
   HE PUSHED THEM...
   AND THEY FLEW.
    ―Guillaume Apollinaire

“来なさい”と彼が言った
彼らは“怖い”と
彼がその者らを押すと
羽ばたいていった
 ギヨーム・アポリネール



そしてこんな歌詞の曲が流れます。



おとぎ話は本当に起こる…あなたにも
心が無邪気なら

心をかたくなに閉ざせない
心が無邪気なら

不可能なことにも挑戦できる
たとえ夢に破れても笑い飛ばせる

人生はときめき
毎日がきらめく
心は愛でいっぱい
そんな日が来る

どんな宝物よりも
ステキなのは
少年の心を失わないこと

どんなお金持ちより
ずっと幸せなのは
少年の心を失わないこと

もし105歳まで
長生きしたなら
どんな人生を
送っているだろう

君はいつだって
スタートできるのさ
無邪気な心を持っていれば




人の心をこんなにも動かすことが出来るなんて…

マジックって、本当に素晴らしい!!




俺が抱えていた違和感、それは観客に「驚き」と「不思議」しか与えていないことでした。

本当にやりたかったのは「夢」と「感動」を与えること。


ずっと求めていた答えを、彼が体現してくれた気がしました…

マジックというジャンルを超え、さまざまな要素を持った超一級のエンターテイメントとして。





デビッドがよく言うこんなセリフがあります。


“If it can be imagined,It is real.”
(想像できたら、それは現実になる)


これはマジックに限らず、何事においても当てはまります。


成功哲学の権威ナポレオン・ヒルの“思考は現実化する”

マーフィーの法則“あなたの人生はあなたの思い描いた通りになる”


これらにもあるように、人生すべての成功の鍵といえる言葉でしょう。




俺はこの日から、「トリックプレイヤー」ではなく「パフォーマー」への道を歩き始める事になりました。