認知行動療法において、絶対に外すことのできない重要概念に、“自動思考”(automatic thought)という用語があります。この用語の生みの親である、アーロン・T・ベックは、これをどのように説明しているか?その著書『認知療法と情緒障害(1976)』を引っ張り出してきて、再読してみた(20数年ぶりなので、ずいぶん埃をかぶっていました)。

 

 情緒障害(うつや不安障害)における、“自動思考”というのは、「ある出来事に出会ったときに反射的に、自分が自分に語りかける判断や予測、そして記憶などである。もっともこれは、日常的に体験しているものであるだけに、かえって最初は意識されていない場合が多い。しかし、自己観察によって、ひとたび心の中に目を向けるようになると、容易に気づけるようになる。なおその内容は、個々の患者に特徴的であるばかりでなく、情緒障害(うつや不安障害)の種類によっても特徴が認められる」と。訳者、大野裕氏の要約。

 さらに付け加えると、

○患者が混乱していればいるほど、自動思考が目立ち、改善するにつれて、自動思考は、目立たなくなる。一方患者の状態が悪化すれば、思考は再び顕在化する。

○こうした思考の価値が外的体験によっていくら否定されても、その患者は-うつから回復するまで-そうした考えを抱き続けていた。

○自動思考の内容、特にもっとも強力に繰り返し起こってくる自動思考の内容が特徴的であることに気づいた。それらは、個々の患者に特有であるだけでなく、同じ診断を受けた患者に共通してみられるものであった。

○こうした思考は、情緒が生じる前に存在していた。・・・一般的にこうした思考には、他の種類の思考よりも多く現実の歪曲が存在していた。・・・など。

 

 近年、認知行動療法的な手法が、ビジネス、教育、スポーツなど、精神医療以外の分野にも取り入れられるようになっているため、“自動思考”という用語がよく聞かれるようになっています。しかし、ベックの提唱した“自動思考”は、情緒障害における自動思考をいうのであって、情緒障害ではない人の自動思考とは別物、と考えなければいけないと思います。たとえば、「自分は何をやっても必ず最後には失敗する」といった、同じ言葉で表わされる自動思考があったとしても、情緒障害の患者さんの“自動思考”と、一般の人(情緒障害がない)の“自動思考”とは性質が異なるものだと、おじいちゃん先生は理解しています。今後このブログで、“自動思考”という用語を私が使った場合は、情緒障害の患者さんの自動思考のことを指していると理解してください。

 

 さて、もう一つ知っておいてもらいたい、認知行動療法の重要概念に、“スキーマ”があります。 “スキーマ”とは、生まれつきの気質や生育環境、過去の体験などの影響を受けて、その人の心の中に出来上がったもので、自分の行動や対人関係における判断基準(善悪判断・価値観・人生観など)となっているもの。スキーマは、自動思考に大きな影響を与えているといわれています。情緒障害の患者さんは、このスキーマに大きな偏りがあり、いろいろな不適応を起こしています。認知行動療法の目標の一つは、このスキーマの偏りを修正することでもあります。

 

参考:スキーマ【schema】を辞書で調べてみると、

①  データベースで、論理構造や物理構造を定めた仕様。

②  新しい経験をする際に、過去の経験に基づいて作られた心理的な枠組みや認知的な構えの総称。となっています