私の診療所で使っているカルテに印刷されている、初診時にチェックする項目は、以下のようなものです。もっとも、これらすべてを初診時にチェックできるわけではなく、時間をかけ記載していくのですが。

 

〇 [家族歴]

〇 [遺伝負因]

〇 [生活史] 生育歴・教育歴・職歴・その他

〇 [性格](病前性格のこと)

〇 [現病歴] 当院の治療への期待(主訴)・経過

〇 [現在症] 初診時

〇 [身体的既往症]

                                

 私が精神科医になりたての頃は、「病前性格は絶対に聞け!」と言われていた。私が研修医だった頃、病前性格の記載がなかったのを、指導医に注意されたことがある。ところが最近は、病前性格にはあまり妥当性がない、ということであまり聞かない傾向にあります。また、初診時には、限られた時間内で、本人が困っていること(主訴)を優先して訊かなければいけない(患者さんもそれを望んでいる)ので、<元々のご自分の性格はどんなものだと思いますか?周りの人からはどう見られていますか?・・・>などと悠長に訊いている時間がありません。また、患者さんの性格傾向は、通院を続けていれば、自然にわかってきます。結果的に多くの患者さんのカルテの[性格]の欄は空白になっている(私の頭の中には入っているはず?)。

 

A子さん、昭和28年生まれ、診断名:不安抑うつ状態、心気症

 平成15年(2003)~平成23年(2011)にかけて、断続的に通院していた患者さんです。A子さんのカルテの[性格]の欄には、本人の言葉で、「ゆっくり、のんびりができない。せっかち。静かなところで一人でいられない。やっちゃわないといられない」と記載されています(どの段階で訊いたのかは記憶にない)。

 一方、治療を続ける中で私が気づいていた、A子さんのASD/ADHD特性は、<彼女がクリニックのドアを開けると、ドアに取り付けたチャイムが鳴り響く。診察室の椅子に座るか座らないうちに、甲高い早口で一方的にまくしたてる。こちらの説明はなかなか伝わらず、同じ話の繰り返しが多い>と。また、薬の種類を2種類から1種類に変えようとしたとき、「薬はやっぱり2種類飲まないとダメ。わたしは、今までどうりにしていたことを変えるのは難しい。私は何でもすぐにこだわる。昼はパン、パンも同じものでないとダメ。それが美味しいとなるとずっと続ける。5年間同じパンを食べている。音楽でも同じで、変えられない。ひとりの時は、十二楽坊一筋。何回きいても全然あきないし、それを聴いていないと落ち着かない。子供には、十二楽坊はやめてよ、と言われている」と。

 これらの特性は、不安抑うつ症状の改善とともに緩和しましたが、基本的にはあまり変わらなかったと記憶しています。

 

 A子さんのことは、いろいろな意味で非常に印象に残っている患者さんで、今から思えば、ASD/ADHDと診断してもいい患者さんだったと思います。環境の変化に伴って、症状が目まぐるしく変化し(時には解離症状が出現)、身体症状に対する強迫的なこだわりは強烈で、これらの症状には、ASD/ADHD特性が大いに関与していたと思います。当時は、私が治療を進めていく過程で、発達障害特性を意識する比重が小さかったので、S子さんにそのことを伝えることはしませんでした。今ならそのことを伝えて、一緒にその対策を考えただろうと思います。症状がいったん改善したあとも、発達障害特性を把握し(本人もそれを知って)、その対策を考えておくことは、生活適応レベルの向上や、再発予防に大いに役立つからです。

 こうしてみると、治療を進めていく上では、発達障害特性(ASD/ADHD傾向)を早い段階で把握することは、病前性格を知るよりも有用性が高いといえます。

 

(補足)

 発達障害特性を知ることが大切であるといっても、うつ病や不安障害などの患者さんの病前性格を知る必要がなくなった、ということではありません。私のカルテの、初診時チェック項目に、病前性格の項目はちゃんと残っています。