この間の月曜日、私は、ボイストレーニングに行く際に、乗り合いタクシーを利用しました。
 それは、まだ、残暑が厳しい時期に、私が編み出した、手段のひとつなんです。
 いつも利用する路線バスのバス停には、日除けがないので、日傘を差していても、暑くて、ひとつ間違えば熱中症になりかねません。

 そこで、乗り合いタクシーを利用して、ちゃんと日除けがある、いつもとは違うバス停からバスに乗ることにしているのです。

 私がタクシー会社に予約を入れた時に指定した待ち合わせ場所は、近くのスーパーでした。

 スーパーの自転車置き場には、ベンチがあったので、そこに腰掛けてタクシーを待つことにしました。

 同じベンチの端しっこの方には、おばあちゃんがひとり、小さなキャリーバッグみたいなのを持って座っていました。もちろん、全然知らない方です。

 私は、時間よりも10分位早く到着していたので、ちょっとお手洗いに行くことにしました。

 お手洗いから帰って来た時も、まだ、おばあちゃんは、ベンチに腰掛けていました。

 そうこうしているうちに、乗り合いタクシーがこっちにやって来るのが見えました。

あ~。やっと来た、来た!照れ

 私が、ベンチから腰を上げた時、そのおばあちゃんも杖を使って、ゆっくりと立ち上がりました。

このおばあちゃんも、乗り合いタクシーを待ってたのかな??それにしても、足、悪そうなのに、ひとりで、ここまで買い物に来たんだなぁ。エライなぁ。✴

 乗り合いタクシーは、ちょうど、私たちの前で止まりました。
 私は、同乗するのかどうか確かめる為に、おばあちゃんに話しかけてみました。

あの~、このタクシーに乗るのですか?

 おばあちゃんは、頷きました。

 タクシーには、ちょっと段差がありました。杖をつき、荷物を持った、おばあちゃんひとりでタクシーに乗り込むのは、かなり難しそうです。

 タクシーの運転手さんが降りて来たのですが、私も、何か手伝った方が良い気がしました。
 そこで、おばあちゃんに、話しかけてみました。
 
あの~、ちょっと、お手伝いしましょうか???私が、荷物をタクシーに運んでおきますね。

 私は、おばあちゃんのそばにあった荷物を運転手さんのすぐ後ろのシートの横に、積み込みました。前の座席に、おばあちゃんが座った方が降りる時も楽だと思ったので。

 おばあちゃんは、運転手さんに手伝ってもらって、タクシーに乗って来ましたが、足が悪いので、少してこずっていました。

 おばあちゃんは、私と運転手さんに、

ありがとうねぇ。膝が悪いもんだから、ちょっとしたことも出来なくてねえ。

 と言い、シートに腰掛けました。

 タクシーは、私たちを乗せ、ゆっくりと動き出しました……。


 ほんの二キロほど、走った場所にある、とあるバス停で、タクシーは停車しました。

あらっ。もう、ここで、このおばあちゃん、降りるんだな。

 私は、おばあちゃんのキャリーバッグを持つと、バス停の鉄製の柱に持たせかけました。

 それから、また、タクシーの方に戻ると、おばあちゃんの両手を握って、タクシーから降りるのを手伝いました。

 その時、私は、左手に、何かが触れているのを感じましたが何なのかは分かりません……。

 そっと、手のひらを開いてみると、



 この、ブルーベリーの飴が2つ、入っていました……。照れ

 おばあちゃんは、私に、

本当にありがとう。膝が痛むから、タクシーに乗るのも大変でね。おかげで、とっても助かったわ。

 そう、深々と頭を下げて、おっしゃいました。
私は、おばあちゃんに、

いえいえ、どういたしまして……。あの~、ところで、これ(飴)は??


ああ、それ? お礼だよ。ちょっとだけど、食べてちょうだいね。

 おばあちゃんは、さらりと、そう言いました。
 私は、なんだか、嬉しくなりました!


はい!ありがとうございます。

 私は、飴をぎゅっと握りしめて、乗り合いタクシーに、再び乗り込みました。

 タクシーの窓から、ゆっくりと杖をつき、荷物を引きずって歩いている、おばあちゃんの背中が見えました。

 家族がいるのか、ひとり暮らしなのか、わかりません。今日、初めて会ったのですから。

 でも、足が悪くても、自分で買い物をして、タクシーの予約もして、

年齢を重ねた今も自分の力で生きている、逞しさが、後ろ姿ににじみ出ていました。

 この出来事があったおかげで、私は、清々しい気持ちで、その日を過ごす事が出来ました。


おばあちゃん。飴、美味しかったです。ちょっとだけ甘くて、ね。照れ照れ照れ