語り部アロマが紡ぐ

「輝きの姫 第136光最終話」聞いていかれませんか。

 

テイト国 王宮

 

5人はジュンスの館で睡眠を取った翌朝、魔法で王宮にやってきました。

白い革張りの大きなソファーが半円形をかたどって置かれ、白い壁には大きな絵が飾られています。背の高い金のスタンドライトがアクセントになっています。

「ここは、特級戦士の称号を授けられた時に魔法で移動させられた場所だ」

「うん。ユノ。黄金のブレスレットを付けてもらったよね」

 

「ようこそ。暗黒時代を終わらせた特別な勇者たちよ」

白いソファーから立ち上がり微笑む30代の男性は5人に歩み寄り、皆にソファーに掛けるよう促します。

「私はテイト国を統治する者のひとりで、ジュノと申します」

 

「賢者チャンミン。あなたの豊かな知識と素晴らしい閃きは多くの困難を救いました。ありがとう」

 

「勇者ユノ。あなたの真摯な思いは周囲の者の思いを動かすほどでした。よき方向へ導いてくれてありがとう」

 

「勇者ジェジュン。あなたが生来もつ快活さと感性の高さに加え、他者を救いたいという大いなる愛を備えた。その愛が奇跡を生んだのです。ありがとう」

 

「神官ユチョン。あなたの繊細な感情は、他者の心の機微まで触れることができる。今少しの休養の後、また神官として務めてください。ありがとう」

 

「白い魔法使いジュンス。あなたの友を想う一途な心が、暗黒時代を終焉に導いた。ありがとう」

 

「特別な勇者の証として、王国からダイヤを散りばめた金のブレスレットを授けます」

パンと手を叩き合図をすると、ブレスレットとドライバーが載せられたビロードのトレイが五つ運ばれていました。

それぞれ手首にはめてもらうユノ、ジェジュン、チャンミン、ユチョン、ジュンス。

ユノとジェジュンは2連のブレスレットになりました。

 

「ジュノ。俺は神官に戻れるのかな?」

「もちろんです。ユチョンの強い集中力を持つ素晴らしい精神力は他に類を見ないものです。もう、ひとりで苦しみを抱え込んだりはしないでしょう。家族がいる。友がいる。仲間もいる。周囲との交流をもっと自由にもって、おおらかな心で仕事に励めばよいのです」

「うん。わかった」

 

「あ、ジュンス。シャッキーが寂しがっていますから顔を見せてあげてください」

「おう。愛しのシャッキー!今行きますよー」

ジュンスは部屋を出て行ってしまいました。

「シャッキーって?」

ジェジュンが聞くとジュノが答えてくれました

「ジュンスの犬なのですが、家族に任せっきりなのです。悪い飼い主でしょう」

「ジュノとジュンスが家族?」

「はい。私とジュンスは双子です。二卵性なので似ていませんが」

「へえ、テイト国を統治するジュノと双子なんだ。え・・・ジュンスって」

「自分には国の統治能力はないからと、幼少期にはすでに宣言しておりました。外に飛び出し、白い魔法使いになりましたね」

「一歩間違えば、ジュンスは王様ってこと?」

ちょっと苦笑いで答えるジュノ。

「そう、ともいえますかね」

「えーーーーっ」

 

王都の森

多くの樹木と小川がある森林公園にやってきたユノとジェジュンとチャンミン

雪は解け、気温は徐々に上がり、もう冷たい風に凍えることはなくなりました。木々は一斉に新芽を膨らませています。木蓮はいち早く白い大きな花を枝に付け、桜の木は枝先に蕾を付けて開花の時を今か今かと待っているようです。

「花が咲くと、なんかうれしいね」

ジェジュンが木蓮を見つけ微笑みます。そんなジェジュンの顔をじっと見つめるユノ。

「花がきれいだと笑うジェジュンの方がずっときれいだ。大好きだよ。ジェジュン」

「うふふ。好きって言われるとハートがキュンとするね。しあわせだなあ。僕もユノが好きだよ」

 

「俺のお姫さま。輝きの姫。やっと捕まえた」

熱いまなざしを向けてくるユノに、ちょっと申し訳なさそうに話し出すジェジュン。

「あのね。ユノ。僕、白い魔法使いになりたいんだ。だからしばらく修行にいかなくっちゃいけないんだけど」

「えーーー。やだ。離れ離れになるのはいやだ。そうだ。俺もその修行受ければいいんじゃねえか!」

「もう!ユノは魔法使いになる気ないくせに」

「そうだけど。ジェジュンと離れるのはヤダ」

「駄々っ子か!」

 

ユノとジェジュンのじゃれ合う姿を、すこし距離を取ってベンチに座り、

寂しそうに見つめるチャンミンに、ひとりの男が声をかけます。

「若者よ。君は私が恋人を病で亡くした時と同じ目をしている。つらいね。でも、その心を少しでも軽くできるかもしれないよ。私が詠んだソネットがあるんだが、聞いてみないか?」

「はあ。どうぞ」

チャンミンの隣に腰かけた男は厚い本を膝に置き、あるページを開き読み上げます。

 

「君を夏の日にたとえようか。

いや、君のほうがずっと美しく、おだやかだ。

荒々しい風は五月のいじらしい蕾をいじめるし、

なによりも夏はあまりにあっけなく去っていく。

時に天なる瞳はあまりに暑く輝き、

かとおもうとその黄金の顔はしばしば曇る。

どんなに美しいものもいつかその美をはぎ取られるのが宿命、

偶然によるか、自然の摂理によるかの違いはあっても。

でも君の永遠の夏を色あせたりはさせない、

もちろん君の美しさはいつまでも君のものだ、

まして死神に君がその陰の中でさまよっているなんて自慢話をさせてたまるか、

永遠の詩の中で君は時そのものへと熟しているのだから。

ひとが息をし、目がものを見るかぎり、この詩は生き、君にいのちを与えつつづける」

 

じっと聞き入っていたチャンミンの眼に涙が溢れて零れ落ちます。

「あれ、なんで涙が?目の奥が熱くなって・・・」

しばし、流れる涙をそのままに、心の中でソネットを反復してみるチャンミン

深く息を吸って、ふーーとはいていきます。

「私の恋心は、生きている限り消えない。そしてジェジュンを見るたび、思い出すたびに私の中で永遠の命を吹き込み続ける」

「さよう。尊い恋心を消す必要はない。君の中で永遠の命を持たせればいい。そして君の輝きの一つとなるのだ」

「なんだろう。悔しさが消えて、奇麗なジェジュンが微笑んでいる。すごく暖かい」

「うまく昇華できたようだね。よかった」

「ありがとう。あなたの名前は?」

男は厚い本を抱え直し、立ち上がります。

「我が名はウイリアム・シェイクスピア。ではな。若者よ」

 

さあ、ここらで物語の幕を下ろすことにいたしましょう。

2年半の長きにわたる連載を、ご愛読くださった方々に心から感謝申し上げます。ありがとうございました。

それでは、皆さま。ごきげんよう。