語り部アロマが紡ぐ

「輝きの姫 第15光」聞いて行かれませんか。

 

テイト国 らべんだー村

 

小高い丘に紫色の絨毯を敷き詰めたような花畑が並んでいる。暖かさを感じられる、ほんの短い花の季節、ラベンダーは咲き誇り、甘やかな香りが立ち込めています。村人たちは、花を摘み、精油を抽出する作業に精を出していました。

 

働く人々の間を、長身の勇者が歩いてきました。村の食堂を見つけた勇者は、入り口近くの席に腰かける。

「この村はいい香りがする。しばらくここで過ごそう」

そう呟き、旅のマントを外し、長い黒髪を、ふぁさっと首を振り後ろに流します。長い前髪で目元は隠れているのに、すっとした鼻筋、柔らかそうな紅い唇、光を纏っているかのような肌がひときわ目を引きます。

ひとりの女性が温かいスープを運んできました。見知らぬ者でも、食卓に座ったら食事を提供するのは、テイト国の決まり事でした。スープの器をテーブルに置いた女性がおずおずと尋ねます。

「旅のお方。いきなりで失礼だとは思うんだけど、聞いてもいいかい?あんたさんは男かい?女かい?勇者のなりはしているが、あまりにもきれいな雰囲気だから、どっちだかわかんないんだよ。皆が確かめてこいって・・」

厨房から、数人の女性がこちらを見守っています。

ふうっと息を吐いた勇者は、手の甲が隠れるくらいの長い袖をまくり、右手首に輝くピンクゴールドの「特級戦士」のブレスレットを見せます。

「僕は、特級戦士でもある勇者だ。男だが、なにか不都合がありますか?」

「おやまあ。特級戦士さまかい。失礼しました。どうぞ召し上がれ。

それにしてもきれいな顔立ちだねえ。そんな風に髪の毛で隠したらもったいないよ」

「ありがとう。でも、この顔のせいで面倒が起きやすくてね。隠してた方が楽なんだ」

「へぇ。きれいな顔が原因で、面倒なことがおこるんだ?女の私からしたら贅沢な悩みに聞こえるよ。ところで、しばらくこの村に滞在するのかい?今は精油を作る作業に人手を取られているから、特級戦士の警護が受けられるんなら大歓迎だよ。名はなんて言うんだい?」

「ジェジュン。この村には、しばらくいようと考えている」

「わかった。ジェジュンだね。村長たちに話しておくよ。私の名はミッサン。よろしくね」

「ミッサン。猫も一緒なんですけど、いいですか?」

「かまわないよ」

「ネネ。出ておいで」

フードの中から顔を出したのは、空色の目をした小さな黒猫です。出てきた拍子に、首輪の革紐が切れてしまいました。地面に落ちた小さな木片を拾うジェジュン

「ついに切れちゃった。『ネネ』って彫ってあったから、お前の名前がわかった大切な名札だ。ちゃんとしまっておくからね」

木片から切れた革紐を外し、腰に付けていた皮袋の中の「ジェジュン」と刻まれたクリスタルと一緒にしまいました。

「このクリスタルの名が、僕の名前だと信じて使っているけど、大丈夫だよね。合っているんだよね」

ニャウン

まるで返事をするように鳴くネネ。10年前の漆黒の霧の影響なのでしょうか。あの時のまま、手のひらに乗るくらいの大きさしかありません。小皿にミルクを入れてもらいペロペロ舐めるネネ。優しい笑顔で見守るジェジュン。寒気の和らいだ、つかの間の春の日のことでした。

 

続く

次回は3月21日に更新します