語り部アロマが紡ぐ
「輝きの姫 第12光」聞いて行かれませんか。
テイト国 オリオンのベルト
赤道近くに、ピラミッドの立ち並ぶ「オリオンのベルト」と呼ばれる地帯がある。巨石を正確に切り出し、精緻に積み上げた構造物のピラミッドが、3つ並んでおり、星空のオリオン座の中央の星の並びに似ていることから、オリオンのベルトという名がつけられた。ピラミッドひとつとっても、その大きさは山のようであり、表面は艶やかに磨かれた白い大理石で飾られていた。朝日が照らすと、巨大な三角の鏡のようになり、白く白く輝きを放った。対する西側の三角形には夕日が当たり、今度は黄金色に染まるのである。このオリオンのベルトは、神聖な区域として、人々は遠くから拝むように眺める場所であった。
誰もいないその地を、ふらりとひとりの男が歩いてきた。神殿を飛び出したユチョンであった。対になっている大きなケルベロスに守られた大ピラミッドの前に立つ。
ふと頭の中に声が響く
((ひとりか?))
「ああ、行く当てのないさすらい人だ」
力なく答えると
((来い!))
と、聞こえたかと思うと、足元の砂が流砂のようにユチョンの足を取り込んでいく。それを人ごとのようにぼんやり眺めるユチョン。生きる気力が失われているのか、静かに砂に沈むのに身を任せている。胸まで埋まり、息を吸うのに胸が締め付けられ広がらず、息苦しく感じ始めた瞬間
ユチョンは、広大な石造りの空間に立っていた。身体を圧していた砂はどこにもなく、手足は自由に動かせるし、息も出来ます。
「えっ。もう天国についたの?」
砂で圧し固められていた手足をさすりながら周囲を見渡すユチョン。
((そちは死んではおらん。我が名はグランノアール。我が肉体は滅びたが、我が思念だけがこの逆ピラミッド、正八面体の地中下半分のこの空間に残されておるのじゃ))
目の前の空間に、ぼんやり黒いローブに身を包んだ長い白髭の老人の姿がホログラムとして浮かび上がる。
「グランノアール?あ、絵本で読んだことがあるぞ。より強い魔力を求め、神を超えようとしたため封印された黒い魔法使いがいたって。あれ、作り話じゃなかったのか?」
((伝えられる話には真実が多いものじゃよ。封印は間もなく300年を越える。魔術で残したこの思念もあと数年で消えるじゃろう。我が会得した秘術をそちに伝授したい。受けるや否や?))
ぼんやりしていたユチョンの目にキラリと力が入る。ぽってりした赤い唇は口角が上がり艶やかな輝きを見せる。
「封印されるほどの魔法使いの技、興味がある」
((良い答えじゃ。名はなんという))
「ユチョン」
((ほほっ。ユチョン。すでに2度命拾いしたな。1度目は流砂にあらがえば死んでいた。2度目は否と言ったらその瞬間命を終えていたのじゃ。運のいい男じゃ))
「グランノアール。神官としての修行は5年したが、魔法は使ったことはないぞ」
((なに、魔術は集中力じゃ。神官なら集中力はあるはずじゃ。問題ない。では始めようかの))
その日から壮絶な修行が始まる地上の雄大なピラミッドこそは誰の目にも明らかな存在であったが、地表を境に、地中にも同じ逆ピラミッドが存在しているとは誰も想像すらしないことであった。
数百年前に封印されし黒い魔法使いの残留思念とユチョンは、摩訶不思議な空間で共に過ごした。そのため、ジュンスの捜索にも見つかることなく、時が経過していったのだ。
続く