語り部アロマが紡ぐ

「天の羽衣 最終話二十二翔」聞いていかれませんか。

 

古の中国 郊外のユノの屋敷 

 

ジェジュンの体に纏う羽衣は、ジェジュンの体を、ふんわりと、浮かび上がらせていった。

「ユノ。離れるのはいやだっ。僕もここに残る。ユノ。ゆのっ」

 

ジェジュンが、人の手の届かぬ高さにまで、上がったのを見届けると、

ユノは、スラリと、太刀を抜いた。

「この俺の屋敷を襲うとは、愚か者め。目にもの見せてくれるわ!」

鬼神のごとき表情に転じたユノは、山賊たちの前に躍り出る。

一緒に戦おうとする召使いたちに、ユノは告げる。

「皆、直ちに逃げよ。こやつらの相手は、俺一人で充分だ!」

 

「なにをっ。じじいのくせに。たたんんじまえ」

いきり立った山賊たちは、四方から切って掛かってくる。

 

華麗にかわし、しのいでいくユノ。

召使たちが皆逃げたのを確認すると、防戦から攻撃へ転じ、切り付けにいく。

並み居る手下を、なぎ倒し、刀傷を負いながらも、

遂に、頭との一騎打ちに持ち込む。

 

「息が上がっておるぞ。じじい。それにしても、十三人の手下を、たったひとりで倒すとは、・・・俺としたことが、襲う相手を間違えたようだ」

 

「後悔は、地獄でするがいい!」

ユノが振り下ろした太刀は、山賊の頭を、

 

ドサリ

と、地に倒れさせた。

 

「山賊退治。ひとりでやるのは、ちと、きつかったかな」

ほうっと息を吐き、血糊を拭った太刀をカチンと、鞘に納めるユノ。

その時、

卑怯にも、死んだふりをして氣配を消していた手下が、突いた槍は背中から、グサリと、ユノの身体を貫いた。

 

ぎっと、振り返ったユノは、その手下の喉元を、左手で握り締め、息の根を止めた。

だが、槍で貫かれた心臓は、その鼓動を、止めてしまった。

ユノは、座したまま、静かに息絶えたのだった。

 

逃げ延びた召使たちが、領主チャンミンやユチョン、ジュンスを伴って、松明を掲げて、ユノの屋敷に、駆け付けた時には、もうすでに、全てが終わっていた。

 

累々と倒れている黄色い頭巾の山賊たちの中で、槍に貫かれ、座して、死んでいるユノの姿を見つけたのだった。

 

チャンミンは、震える手で、ユノの体を貫く槍を抜き、ユチョンやジュンスと共に、静かに、その体を横たえた。

その死に顔は、穏やかで、美しく、まるで眠っているだけではないのかと思わせるものであった。

 

召使いの話から、ジェジュンは、羽衣を纏い、天へ帰っていった様子を聞き、驚いたが、あの類まれな美しさ、賢さは、天女であったためかと、皆が納得した。

「俺たちは、天女に育てられたんだな」

「ああ、素晴らしい父と母だった。俺たちは幸せ者だな」

「うん。うん。本当に」

在りし日の父母を思い出し、手厚くユノの亡骸を葬るのであった。

 

 

ユノの魂は、綺麗な花畑に佇んでいた。

ぼんやり、あたりを見廻すユノ。ふと、頭上から橘の花の香りが漂ってきた。

「ああ、なんていい香りだろう」

 

ユノが上を見ると、暖かな光が一筋、ユノを照らした。そして、ゆっくり上がっていった。

上がりながら、ユノの風貌は、二十歳ぐらいの精悍でしなやかな体、凛々しい眼差しへと若返っていくのだった。

 

やがて、大きく輝く、穏やかな存在の前に立っていた。

「よく来た。ユノ」

大いなる存在は、ユノを、よく知っているようだった。

 

「はい」

ユノは、この、大いなる存在から、確かに愛されている安心感で、自分が満たされていくのを感じていた。

 

「ユノ。そなたを天人とする。この者と共に、しかと励むがよい」

 

((ああ、俺は、直接、神様のお役に立つことが出来るんだ。なんて誉れなことだろう。幸せなことだ。しっかり励もう))

そう決心して、目を開けると、そこには、大勢の天人が佇んでいた。

 

その中で、一際美しく、輝きを放つ、ジェジュンがいた。

出会った頃、そのままの、艶やかな美貌を湛えた、愛しいジェジュンが、微笑んでいた。

 

「また、逢えたね。ユノ」

「ジェジュン。無事、天に還れたんだな。よかった」

 

「ユノは、僕の夫だから。神様にお話したら、ユノを天人にしてくださった。僕がそう願ったからだけじゃなくて、ユノ自身が、尊い心映えを持って、人が喜ぶことをするという『徳』を、たくさん積んでいたおかげだよ。

そして、嬉しいことに、天界でも、僕のパートナーだ。めっちゃいいでしょ」

 

ユノが、自分の体を見ると、白い腰布を纏い、天の羽衣が、腕にたなびいていた。

「あ、ジェジュンと同じだ」

 

「うふん。『羽衣』は、見る者によって変化するんだ。『白い大きな翼』に見えたり、『金色の後光』の様に見えたりするんだよ」

 

「へぇー。そうなんだ。ところで、俺は、ここで、どう働けばいいんだ?」

 

「ん?どうって。もちろん、神様のお手伝いだよ。

神様は、人間に幸せになってほしくって、文明を発展させてほしくって、人々が支え合って、助け合って、愛に溢れた世界を作り出してほしい

って願ってらっしゃる。

だから、僕たちは、その手助けをするんだ。やり方はね、例えば、気付いて欲しい人間に、サインを送ったり、事がうまくいくよう、段取りを組んだりするのが、僕らの仕事なんだよ。

ここ三十五年ほど、僕は、ユノ専属で、人間として生きて、いろんな素晴らしい体験が出来て、幸せだった。

これからは、世界中の人々の為に、飛び回らなくっちゃね。僕と二人で!」

 

「三十五年、人間として・・あ、俺が、羽衣を隠したりしたから・・・」

 

「ふふん。僕、天人だよ。羽衣の在り処なんか、初めっから、ちゃんと分かってたよっ。

でも、ユノは、僕が天に還ってほしくないって想って封をしただろう。その封は、僕には破れないんだ。

それに、なにより、僕が、ユノの側にいたかった。僕の意思で、ユノが寿命を終えるまで側に居るって決めたんだ。

 

たったひとりの、僕の特別な存在だけを守りたい。

なんて、天人らしくないことを願った。そんな風に思ったのは、ユノだけなんだからねっ」

 

「ジェジュン・・」

「ふふふ。さあ、行こう。ユノ。世界へ!」

「ああ。ジェジュン!」

 

守りたいよ  君の悪いクセもすべてが   

僕を笑顔にさせる 

もどかしいけど  いつまでも愛してるよ  

僕のもとにおいでよ    『守ってあげる』より 

 

 

今の私たちの目から見たら、きっと、純白の羽を広げた天使の姿に見えることでしょう。

天使ユノと天使ジェジュンは、今、貴女の側で、微笑んでいるのかもしれません。

 

自分を慈しんで、

自然を愛して、

世界に愛が満ちることを願い、

この物語の幕を下ろすことにいたしましょう。

 

それでは、皆さま。ごきげんよう。