語り部アロマが紡ぐ

「天の羽衣 十五翔」聞いていかれませんか。

 

古の中国 領主ユノの館 

 

チャンミンの剣の稽古も、三か月が過ぎようとしています。

いまだ、木刀しか許されてはいませんが、相手の剣を、しなやかに払い返せるようになっていました。

 

「大分、動きがよくなってきたな。チャンミン」

「はいっ。父上!」

ユノに褒められて、すこぶる嬉しそうな笑顔を見せるチャンミンです。

 

「一対一の試合形式ならこれでいい。だが、実戦ではどこから敵が襲ってくるかわからない。複数の場合もある。今度は、そういった練習をしていこう」

 

チャンミンは、遠く離れてみている様、指示されます。

 

ズザッ・・

と、ユノを複数の剣士が囲みます。

 

ユノは、顔は俯かず、静かに前を見据えているようです。首はまっすぐ、両肩を下げて背筋を伸ばし、腰はかがまないようにしています。しずかな佇まいでいながら、つけ入る隙がないような、ピンと張った緊張感が漂います。

 

剣士の一人が、うおりゃああーーと木刀を振り上げかかってきました。2、3人の剣士が続いて動きます。

ユノは、敵の方を振り返ることもせず、前を見据えたまま、木刀を払っていきます。三人の剣を払い、四人目の喉元に剣の切っ先を突きつけます。

 

「母上・・父上は背中にも目があるのですか?見もしないで、どうして相手が掛かってくる場所が分かるんですか?」

チャンミンの感嘆まじりの呟きを、頷いて聞くジェジュン。

 

「ユノは、ふたつの目を使っているから。

『観の目』は、心の働きにより状況全体を見る目。

そして『見の目』は、普通に目で追って物を見る目だよ。

戦いの場では『観の目』を使って、その場の氣配を感じ取ることが必要なの」

 

「母上。おっしゃっていることが良くわかりません」

 

「ふふふっ。」

 

「さあ、チャンミン。やってごらん。」

ユノが手招きしています。

 

チャンミンは、わけがわからないまま、剣士たちの中央に立ちます。

 

剣士たちは、あえて、ゆっくりした動きで、掛かってきますが、物音の方を振り向いて対応するチャンミンは、隙だらけで、反対側から、木刀が振り下ろされ、あっけなく倒されてしまいます。

 

「くっ・・」

負けず嫌いのチャンミンの目に、涙が溜まってきます。

「もう一回!」

剣を構えて立ちあがります。

ですが、何回やっても結果は同じです。

 

「目で相手の動きを見ようとするな。氣配を見るんだ」

ユノの言葉に、つい、チャンミンの本音が、口から、でてしまいました。

 

「・・・そんなこと、出来ません!」

チャンミンは、流れる涙を拭おうともせず、ユノを睨みつけます。

 

ふっと優しい微笑みを浮かべて、ユノは言います。

「少し、周りを見てごらん。きっと、ヒントがある。お前なら分かるはずだ」

ユノの余裕のある態度が、チャンミンの不安で一杯な心を、逆なでします。

「私には分かりっこない。出来っこない。父上は、特別なんだ!」

木刀を、足元に投げうち、走り去って行ってしまいました。

 

「殿。やはり、怒らせてしまいましたな」

「氣配を感じろとは、十四の子供には、無理難題でしょう」

「そうか?チャンミンなら出来ると思ったんだが」

 

「殿が氣配を感じられるようになられたのは、たしか十七、八でしたぞ」

昔、ユノを指南したであろう老家臣が呟きます。

「そ、そうだったか・・な」