語り部アロマが紡ぐ
「石想アドバンス レベル60」聞いていかれませんか

藍染の村

ユノ達は林を抜け、こじんまりした村にたどり着きました。
「ユノっ。見て!腫れてきちゃった。クスン。さっきの雑木林で虫に刺されちゃったんだ。えーん。かゆいよ~」
ジェジュンの白い腕が赤く腫れあがっています。
「うわっ。痛そうだ。ジェジュンの肌は赤くなりやすいから・・・。かわいそうに」
ユノが長く細い指でジェジュンの腫れた肌を包み、熱を取ってくれるようなしぐさをします。ヒンヤリしたユノの指先の感覚は心地よく、機嫌のよくなったジェジュンさん。うっとりと目の前のユノの顔を眺めています。そこに、ブーンと虫の羽音が耳元に聞こえてきました。
「いやー!!ゆの~~。虫がきた~~」
ユノの後ろに隠れるジェジュン。
「ジェジュン。小さい虫に、大げさだなあ」
「だって!ユノは刺されても赤くならないじゃん。僕は腫れちゃうし、痒いし大変なんだぞ」
「わかった。わかった。ほら、マントの前を合わせて、刺されないようにしなきゃ」
素直に、出していた白い腕をマントの中に隠すジェジュン

ニャー
ジェジュンの足元に白い猫が すり寄ってきました。
「あっはっ。猫ちゃん。こんにちは」
ジェジュンが抱え上げます。
「ドミ!」
猫の飼い主の若い女性が駆け寄ってきました。
「貴女の猫ちゃん?大きくて凛々しい顔立ちで素敵だね」
自分の猫が、すごい美人に抱っこされているのを、暫し口を開けて眺めている女性。蒼い布をたくさん抱えた20代の青年が、女性に声をかけます。
「チャコ?どうした」
「はっ。あまりにあの方が美しすぎて見とれてしまった。すみません。家の猫のドミっていいます。引っ掛かれたりしてませんか?」
「ふふっ。ドミは何もしてないよ。 虫に刺されてはいるけどね」
ジェジュンはドミを下ろし、赤く腫れた腕を見せました。
「ああ、かわいそうに」
蒼い布を抱えた青年が、布のひとつをジェジュンに差し出します。
「・・・あの、よかったら、藍染のスカーフを差し上げましょうか。今出来たばかりの品です。あ、でも、地味ですから・・・お気に召さないかもしれませんね・・・」
差し出したはずの藍色の薄手のスカーフを、おづおづとしまおうとしています。隣にいた妹のチャコが、兄マウムの手からスカーフを取り上げます。
「マウムお兄ちゃん。そんな控えめじゃ旅の方ももらいにくいよ。あのね。藍の染料は虫除けの効果が高いの。雨季が終わったばかりの今の時期は、虫が多いから、旅を続ける貴方には、このスカーフは役に立つはずです。どうぞ」
ジェジュンはチャコからスカーフを受け取り、大きく広げてみました。藍色から縹色(はなだいろ)へ斜めにグラデーションが入っていて、薄手ながらも温かみが感じられる柔らかな生地でした。
「うわあ。素敵だ。なんてきれいな青色、ううん、なんて深い紺色だろう」
嬉しそうに身に着けてみるジェジュン。そんな姿を見ていたマウムはほっとしたように笑いました。
「あ、よかった。気に入ってもらえて・・・。前に、他の街のバザールに行ったとき、『暗い布ね。』って、手に取ってももらえなくって・・・自信がなくなっていたんだ」
「もう、今度から私がバザールに行くから!藍染って根気がいるし、すごく難しいし、でも、その効果は日々の生活を助けてくれる素敵な技術なんだよ。マウムは職人としたら一流なのに、表現が苦手なんだよね」
「『藍』はおしゃべりしなくても感覚で何をしてやればいいかわかるんだけどね。
人間は難しいや・・・」

「よろしければ、藍染をしているところを見せていただけますか?」
ユチョンが本の知識で見たことのある藍染の作業に興味が湧いたようです。
「ああ。今日の作業は終わったから。明日なら・・いいですよ」
「お願いします!」
その夜は、村の一角に旅人のゲルを広げ一泊することになりました。

To be continued