語り部アロマが紡ぐ
「石想アドバンス レベル55」聞いていかれませんか。

西の塩湖の街 高山の洞窟

ライザが洞窟の中にいた3人に訴えます。
「あの、私どうしても、ローマンカモミールの花が欲しいんです」
若者が答えます。
「季節を違えたものを手に入れるためには、何か大きな代償が必要だな」
「なにかって・・私何も持っていません・・・。あ、このネックレスでは!」
首筋のアラゴナイトのネックレスに手を添え訴えます。若者が、ライザをじっと見ます。
「いや。そのアラゴナイトたちは『君の為に力を出したい』と言っている。君がこの場に来るためにも、精一杯働いたようだ。もらうわけにはいかないな。
そうだな。その長くてきれいな黒髪をくれるなら、ローマンカモミールの花を咲かせてあげよう」
「えー。その子がすごく大事にしてる自慢の黒髪だよ。無理だよね」
少年が大声でいいます。まるで普段のライザの行動を知っているかのような口ぶりです。若者はよく切れそうな鋏をライザに渡します。
「さあ、それで切ってくれ。出来るかい?」
ライザは小さく頷き、黒髪を片方にまとめ鋏を当てます。ずっとずっと大切に手入れしてきた、さらさらの艶のある髪です。自分の美しさを際立出せてくれる黒髪をバッサリ切ることは身を切られることのように辛く感じました。
でも、ジンの目が見えるのならば・・と目をつむり、震える指先を抑えるために息を止め、開いた鋏をシャクンと閉じました!
握りしめたはずの鋏は、手の中にありませんでした。落ちて散らばっているはずの黒髪は見当たりません。ハッと顔をあげるエルザ。老人が鋏を手にし、微笑んでいます。
「そなたの決意を試すようなまねをして悪かったの。鋏はわが手にある。そなたの髪は無事じゃ」
「さあ、ローマンカモミールの花だ。この花のエッセンスが、お前の大事な人の目を癒してくれる。持っていくがいい」
愛らしく咲き誇るローマンカモミールの花々。リンゴのような爽やかな香りが立ち込めます。
ライザは若者から、籠一杯のローマンカモミールの花を受け取ります。
「ありがとう。ありがとう。これでジンの目は見えるようになるのね・・」

「ボクは君を麓に届けてあげるよ。もう君ったら、下山の体力なんか残ってないでしょ」
少年の申し出に、ホロホロと涙がこぼれます。本当に立っているのもやっとで、手足が震えているのを止められないぐらい疲れ切っていたからです。
「ありがとう」

To be continued