語り部アロマが紡ぐ
「石想アドバンス レベル15」今宵はチャンミンの生い立ちを語り聞かせましょう。

16年前の北の本の街 
天空の星がひと際輝く夜のことでございました。
オンギャー 高い声で泣く生まれたばかりの男の子。ですが、その小さな体を包み込む腕は母親のものではありませんでした。白いローブをまとったシリウスの腕です。
「この子の命は私が育もう。安らかに眠れ。ミミ。天の園からこの子チャンミンを見護ってやってくれ。父ユンと共に」
チャンミンを産み落とすとともに息絶えた母ミミ。

父ユンは街を守護する剣士でした。出産の日の2週間前、白い大熊が街を襲った折に、数名の仲間と戦いその命を落としたのでした。白い大熊は深い痛手を負い逃げていきました。街は救われましたが数人の剣士が犠牲となってしまいました。
夫の死を悼み泣き暮らしたミミには、出産の出血に耐えられる体力は残されていませんでした。チャンミンの産声を聞くとほぅと息を吐きそのまま天に召されたのでした。残された子チャンミンは、街一番の賢者が引き取り養育したのです。

赤ん坊を取り上げた女性が涙を拭きながら、チャンミンの顔を見つめます。
「ほら。みて。可愛い笑顔。きりっとした目元をしてるよ。賢い子になるに違いない。ねえ。シリウス様」
「うむ。生まれた時の星並びが、秀でた才能を示している子だ。両親との縁は薄かったが、皆でこの子を幸せにしてあげよう」

歳月が流れ、北の本の街で大切に育てられたチャンミンは12歳になりました。本の好きな子でいつも静かに読書していました。華奢な体に似合わず食欲は旺盛で、その食べっぷりは見ていて気持ちのいいほどでした。
「ごちそうさま。とても美味しかったです!」
作ってくれたおばさんたちに毎回きちんとお礼を言うチャンミンは、バンビのような愛らしさで街の皆の人気者でした。

ある日チャンミンはシリウスに尋ねました。
「私の父ユンの命を奪った白い大熊は、今どうしているでしょうか?」
「うむ。ユン達との戦いでかなりの深手を負っていたからな。その年の春、西の谷で大熊の死骸を見つけたと聞いている」
「そうですか。私が退治してやりたかったのに残念です。
実は、熊が街を襲わないような策を思いついたのです。新しい防護壁を考えました。聞いてもらえますか」
「うむ。どのような防護壁かな」
チャンミンが図で説明したものは、熊は逃げる者を追うという習性を利用したものでした。
「現在の防護壁の大きな音が出る仕掛けは熊の神経を逆なでします。追い払うどころか余計に怒らせるだけなので逆効果です。前後不覚になった熊は人間に襲い掛かるのですから。
逆に熊の注意を反らすのです。防護壁にスロープ状の溝を作り木の実を詰めた蔓の籠をボールのように転がします。熊はみずからの習性で籠の後を追うことでしょう。熊が蔓の籠に追いつき木の実を食べてしまっても、空腹が満たされた熊は森に帰るはずです。
詰めの一手として籠で熊を遠方に引きつけた谷あいに150kgを超える体重が掛かったら蓋が破壊される仕掛けの落とし穴を作るのです。
これならば街の人に犠牲はでません。安全に街を守ることができます」
「チャンミン・・・」
「父の命がけの熊との攻防は確かに街を守りました。ですが、母の命を縮めました。私は父母と過ごす時間を失ったのです。悲しいことに、数年毎に、2,3人の犠牲者が出ていると聞きます。もう同じ悲劇は繰り返したくありません!」
チャンミンの真剣な眼差しを見つめ、シリウスは思いました。
((自分の悲しみを改善策へと昇華させたその精神力。星の予言は真であったな))

「その智恵、見事である。早速街の者に伝えよう。よく学びよく考えたな。チャンミン」
「はい。ありがとうございます!」
チャンミンのアイデアはすぐに実行されました。その冬から北の本の街は、長年の懸案であった熊の襲撃から安全に回避できるようになったということです。

To be continued