語り部アロマが紡ぐ

「東方日誌 三十五頁」聞いていかれませんか。

 

中国の市場

 

ユチョンはジュンスと中国に行き、大きな市場の中を、或る物を求めて捜し歩いていました。

「なかなか見つからないねぇ」

ユチョンのため息交じりのつぶやきに、キョロキョロしていたジュンスの目がキランと輝きます。

「ユチョン。こっち、こっち」

「じゅんすぅ。言葉もわからないくせにずんずん行けるお前がすごい」

人ごみをかき分け、南国の商品を扱う一角にたどり着き,ジュンスが、鳥籠が並ぶ店を見つけました。

「あっ。ほらっ。めっけ!」

「・・・うん。見つけた。珍しい鳥さん。ジュンスの野生の勘恐るべし・・・」

幸い、ニューギニアからの船が着き、極めて珍しく華やかな姿をした極楽鳥を見つけ買い付けることに成功しました。

 

嘴は青く顔の上は黄色、下は緑色、身ごろは薄茶色で背中から尾羽が長く幾重にも広がっています。尾羽の根本は黄色、先端は白く長く伸びています。ふわふわした豊かな尾羽根を揺らすその姿はとても優雅です。

 

東方街に戻り、街の一番大きな市場で『極楽鳥』と大きく名を掲げ高値で売りに出します。その珍しさに大勢の人だかりが出来ますが、みんな『龍札』を買うのに散財しており、この極楽鳥を買う余裕のあるものはおりませんでした。

噂を聞きつけたイル法師が

「私こそ極楽鳥を飼うにふさわしい男だ。その鳥、幾ら出しても構わぬ。必ず手に入れて来るんだ」

命令された男は大金を持って鳥を買いにきました。ユチョンは勿体付けて、値を競り上げ高値で売り付けることに成功しました。主人の言いつけ通り手に入れた極楽鳥を入れた華奢な鳥籠を抱え、男は帰っていきました。

「なんと素晴らしい。極楽鳥を飼えるなんて、まるで中国の皇帝のようだ。大切にせねば」

華やかで高価なものを手に入れた喜びで有頂天になるイル法師。

外の風にも当てず、細工の細かい鳥籠に入れたまま日がな一日眺めていました。

 

日が経つにつれ、だんだんと活気が無くなり、エサもあまり食べなくなってきた極楽鳥。羽の艶は失われ、豊かな尾羽はだんだんしなだれてきてしまったのです。

「なんと。どうしたものか!誰か極楽鳥を治せるものはいないのか?」

彼方此方聞いて回る召使たち。遂にキム村の巫女ジェジュンの噂を耳にします。キム村まで足を運んで噂の真相を確かめます。

「確かに、小鳥や野兎の傷を癒す姿は見たことがあるよ。だが、今は東方部隊ユノ隊長の奥様だ。まだその力をおもちかどうかはわからねーだよ」

とのことでした。男はイル法師に報告します。

「東方部隊ユノ隊長といえば、都から来た優秀な役人です。ちょっと行って頼むにしても・・・あっしら、後ろめたい事をしていやすから・・・どうにも具合が悪いでさぁ。イルの旦那。極楽鳥のことは諦めちゃあどうですかい?」

「高い金を出して手に入れたんだ。極楽鳥は死なせられん!一番いい龍札をただでやるから、治してくれと頼んで来い」

「へぇ」

龍札に何の価値もないことを知っている男は、気のない返事をしました。しかし、命令には従うしかありません。しぶしぶ隊長宅に伺うことにしたのでございます。