語り部アロマが紡ぐ

「東方日誌 三十頁」聞いていかれませんか。

 

東方部隊駐屯地 武道場 

ユノ隊長は赴任以来日曜日には、子供たちに武道を教えていました。

朝鮮国一の剣術の使い手と都で評されたユノ隊長からの指南であり、しかも安価な月謝でしたので、隊員の子供や近所の子供達が大勢教えを受けに集まってきました。凛とした佇まいのユノを師匠と崇める幼い教え子たち。剣術だけでなく、礼儀作法から年上を敬う言葉使いなど『徳』を高める知識をも身につけていきました。

 

今日は稽古の開始時間より早いにも関わらず、武道場の中から竹刀の音が響いています。早くから稽古に駆け付けた熱心な子供たちは不思議に思い、武道場を覗いてみます。

「あっ。ユノ師匠が稽古つけてる。あれ、相手は誰だろ?」

「ユノ師匠と同じくらい背が高いよ。お顔がすっごくきれいだなあ。腰は細いし、女の人かな?」

「ええっ。おとこだよぉ。すっごく凛々しいじゃん。かっこいいっ」

「うんっ。前に見た京劇の剣舞みたいだ。きれいだなあ」

「でもあの綺麗な顔。見た覚えがあるよなあ・・。えっと・・」

ユノの相手とは長い黒髪を背中におろし、黒い稽古着を纏ったジェジュンでした。いつもの愛らしい姿とは別人のようです。立ち姿はしなやかで凛々しく、その印象的な強いまなざしは生来の姓を表出しています。ユノと真剣に戦う姿を教え子たちはため息をついて見守ります。やがて、通常の稽古の時間がきました。

 

教え子たちは大きな声で挨拶しながら武道場へ入ってきます。

「おはようございます。ユノ師匠!」

「うむ。おはよう」

優しい笑顔で子供たちを迎えるユノ師匠。ジェジュンはユノに礼をし、静かに武道場を後にしました。

「ユノ師匠。あの方は?」

「ん・・見ておったか。その・・嫁のジェジュンだ。だが、このことは内密にな」

「一緒に稽古されたら良いのに」

「そうだな・・。そうできたら良いのだが・・・」

男尊女卑の考え方が強い朝鮮国。まだ女が堂々と剣術の稽古などできる時代ではなかったのでございます。

 

「お帰りなさいっ。ユノ様」

隊長宅に戻ったユノを優しい笑顔で出迎えるジェジュン。ユノは眩しそうに目を細めてジェジュンの顔を見つめます。

「ん?どうかなさいました?」

「いや・・嬉しくて。こうして帰る場所があって、愛しいジェジュンが迎えてくれる。・・・すごく幸せだ」

「うふふ。ジェジュンもユノ様をお迎え出来て、すごく幸せです」

「・・・ジェジュン。たとえ、私が遠くに行って迷ったとしても、・・必ずジェジュンのもとに帰る。ジェジュンは私の灯りだ」

「では、ジェジュンはもっと綺麗になって輝かなければなりませんね。ユノ様にちゃんと見つけていただけるように。あはっ」

体でジェジュンを家の中に押し込み、後手で戸を閉めるユノ。ジェジュンを力強く抱きしめます。

「もうっ十分美しいっ。私だけの灯りだ」

何気ない日常の中に幸せを見いだせる心の豊かさが、ユノとジェジュンの美しさをより引き立たせているのかもしれませんね。