語り部アロマが紡ぐ

「東方日誌 十七頁」聞いていかれませんか。

 

大きな湖と豊かな森を持つキム村

 

夕日が沈む森の傍らに馬に乗った黒装束の男がひとり現れました。長い黒髪をおろし、後ろで一つに束ねた姿は、夜警師として活躍していた様子そのままです。

男の名前はユノ。東方部隊隊長という立場ではなく、ひとりの男としてこの村に忍んできたのでございましょう。

 

ユノが村の墓所近くを通るとき、幽霊たちの会話が聞こえました。

「今夜は満月だなぁ。巫女様が祈祷所でお祈りをされるだろ。ああ、歌を歌ってくれないかなあ。心が洗われて成仏できそうな気がする」

「ばっかじゃないか?お前は子だくさんなのに早死にして、この村を離れられねぇんだろうが」

「そうだった。坊主たちが母ちゃんに苦労かけるんじゃないかと心配でよお」

現世に留まる幽霊といっても、どうやら悪さをする輩ではなさそうです。ジェジュンは今夜祈祷所にいるとわかったことに礼を言いたいくらいでした。

 

湖のそばの祈祷所では、巫女ジェジュンが巫女装束に身を包み静かに祈りを捧げていました。祈りの途中、合わせた掌がさがり、ふぅとため息をつくジェジュン。はっとして気を取り直し、祈りを続けます。

 

キキィ

扉が開く音がします。

「兄様。香油を持ってきてくださいましたか?」

ゆっくり振り返る巫女ジェジュン

 

しかし、入り口に立っているのは兄ではなく黒装束の男でした。

 

「ひっ」

と一瞬身構えるジェジュン。

 

静かに跪く男はまっすぐジェジュンを見つめます。

その澄んだ瞳を見たときに、ジェジュンの目には涙が溢れてきました。

「・・っ。ユノ様っ」

「ジェジュン」

物静かな声ではありますが、その奥にはあふれ出る情熱を感じさせます。

どちらともなく手を伸ばし、お互いの体を手繰り寄せます。

「会いたかった!」

ユノの言葉と共に、力強く抱かれるジェジュン。

「会いたかったぁ。わらわもユノ様に・・・ずっと、ずっと会いたくっ・んっ・・」

その先の言葉は、ユノの唇に遮られます。お互いの存在を確かめるように、何度も啄むような口づけを繰り返しては見つめあうユノとジェジュン。恋い焦がれた相手が腕の中にいる幸せを噛みしめる至福の瞬間でございました。