語り部アロマが紡ぐ

「東方日誌 十五頁」聞いていかれませんか。

 

大きな湖と豊かな森を持つキム村

 

湖のほとりに立つ紅葉の葉が落ち見事な緋色の絨毯が出来ています。その上に膝を抱えてうずくまる白い衣の巫女ジェジュン。長い睫は伏せられ、可愛らしい唇からは小さな吐息が零れます。いつもであれば、祈祷所の中で自然に対し感謝の祈りを捧げている時間です。

巫女の周りには小鳥やウサギがちょこちょこと動き回っていました。よく見ると、木の実や花を咥えてきては、ジェジュンの周りにそっと置いているのです。

「ふふっ。優しいね。お前たち。ありがとう。わらわの気持ちを晴らそうとしてくれているんだね」

 

足元の桔梗の花を手に取り、ふんわり微笑むジェジュン。

「でも、悲しいわけじゃないんだ。なぜか、切なくて・・・、村のために祈らなきゃいけないのに、身が入らない。

秋祭りでお会いしたユノ様の澄んだ波動を感じたい。あの長くしなやかな指に掴まれた手の感覚が消えなくて・・・。

ねぇ。わらわはどうしちゃったんだろう?巫女だから、祈らなくっちゃいけないのに、祈ることがとても楽しかったのに。

集中しようとすると、ユノ様のお顔が思い浮かんで・・・。自分の体の感覚が変なの。・・・・

でも、お前は答えを知らないよね。ウサギちゃん」

ウサギはジェジュンの話し声に耳をピンと立てますが、すぐドングリを齧りはじめます。

悩むジェジュンに、それは恋心というものだよ。と教えてくれるものはいません。ただ、静かに秋の刻が過ぎていくばかりでございました。

 

元々食の細いジェジュンでしたが、この頃は小鳥が啄むくらいしか食べません。華奢であった体は更に細くなってきました。一緒に暮らすジュンスが心配して聞きます。

「ジェジュン。体調が悪いんじゃない?街に行ってお医者様に診てもらおうか」

「えっ。いやです。兄様。わらわは大丈夫。・・・ちゃんと食べますから。ねっ」

「う・・うん。そうか。まあお医者様に診てもらうのも・・・そうだね。じゃあ、ちゃんと食べなきゃだよ」

ジュンスが躊躇したのは、ジェジュンが男であるためでした。ある理由から性別を偽り、ジェジュンは『聖なる巫女』として育てられてきたのです。兄ジュンスはこの秘密を守るために、ずっと頑張ってきたのでございます。