語り部アロマが紡ぐ
「雨の記憶 五雫」聞いていかれませんか。
人間界 ユチョンの家
「ただいま。母さん。ユファン」
ベッドに横になっていた夫人が身体を起こします。
「おかえりなさい。ユチョン」
「かあさん。起きて大丈夫?」
「ありがとう。優しい子ね。今日はいくらか調子がいいの」
「よかった。ああ、途中で柘榴を摘んだんだ。かあさん、これ好きだろ」
「あら、よく覚えていたわね。ありがとう」
「うん、種ばっかで食べるところはちょこっとなのに、こんなのが好きなんだってびっくりしたから覚えてた。今でも俺は好きじゃないし」
「そう?この種を育むための周りのわずかな果汁に栄養がたくさんあって、身体にとてもいいのよ」
幾粒か口に入れて、甘酸っぱさをかみ締める母。
「ん、美味しい。元気が湧いてくるわ。ユチョン。ありがとう」
「うん。喜んでもらえて良かった。ところでユファンは?」
部屋を見渡し尋ねるユチョン。
「私が眠る前まで、そこに居たのだけど・・」
そこへ、水がめを背負ったユファンが帰ってきました。ユチョンの姿を見つけて微笑みます。
ユチョンより3歳年下で、少年ぽさが目を引きますが、面立ちは兄によく似ています。
「あ、お帰りなさい。にいさん」
「ただいま。水を汲みに行っていたのか」
「そう、かあさんが寝てる間にね。東の岩場に水が湧き出しているところを見つけたんだ。美味しい水だったから、汲んできた」
「可愛いばっかりだと思っていたら、逞しくなりやがって・・」
ユチョンのつぶやきに、ユファンが答えます。
「僕だって男だからね。やるときゃやるさ」
「よく言うよ。泣き虫のくせに」
「兄さんだって泣き虫じゃんか」
「やるか!」
「やんない。まだ、身体が小さい僕のほうが不利だもん」
「くそっ、変に冷静なとこが腹立つし」
「にいさんは短絡的なの」
「なにをっ。行動力があるっていうんだよっ」
「ほらほら、けんかしない。ああ、私が夕食作ろうか」
「うわっ、やった!かあさんの料理ひさしぶりだ」
兄弟声を合わせて答えます。
「ふふっ。ふたりの顔見たら元気がでてきた。美味しいの作るね」
久しぶりの家族団らんを楽しむユチョン達でした。
続