語り部アロマが紡ぐ

「桜夢 最終夜」聞いていかれませんか?

 

日が落ち、夜の帳が下りてきた頃、

寝所の障子を開いて、愛しいジェジュンがやってくるのを待つゆの。

 

月明かりに照らされ、桜の樹が輝いたかと思うと、

艶やかに美しいジェジュンの姿が現れました。

 

「ジェジュン。愛しい人。早く私の傍においで」

 

切なげな瞳で、ゆのをみつめるジェジュン。

 

「ゆの。愛しい人。聞いてくれ。

我は精霊じゃ。樹齢三百年を越え、力を得た。

 

我の残りの樹齢すべて使って、そなたの病魔を封じよう。

 

そなたには、生きていてほしい」

 

「私が生きればジェジュンが死ぬのか。

 

では断る。

そなたがいるから生きてこられた。そなたがいない人生などいらぬ。

 

さあ、最後の一夜の夢を見させておくれ」

 

優しい笑顔でジェジュンを手招きするゆの。

 

ジェジュンが頚を振ります。

長い黒髪がさらさらと乱れます。

 

「我がいやなのじゃ。そなたの死を看取るのが。

 

胸がえぐられる様じゃ。ゆの。

 

ひとり残されて永い樹齢をどう生きろと・・。

 

もはや見てほしい人はいない。

咲き誇る甲斐もない・・」

 

着物の袖で顔を覆い、肩を震わせるジェジュン。

 

「ジェジュン。そなたとともに天に昇れたら、こんなにうれしいことはない。

 

しかし、そなたの樹齢は、まだ、あるのであろう?」

 

ジェジュンは、はっと顔をあげます。

涙で輝く瞳に、力が入ります。

 

「ゆのが、

そう強く望むのであれば叶う。

 

精霊は、一度だけ人の願いを叶えることができる。

 

死出の旅路の供に、我を欲してくれぬか?ゆの」

 

見つめあうふたり。

 

「そなたの命を取ることになる・・が、そう望んでもよいか?

 

ジェジュンと離れたくない。

ともに天に昇ろうぞ」

 

大きな瞳をきらきらさせて、嬉しそうに微笑むジェジュン。

 

「七年前、出会うたは運命であったか。

こんなに恋焦がれた人に想われて、我は幸せじゃ。

 

今宵一夜、愛を交わそう。

そして、夜明けに天に昇ろうぞ」

 

ジェジュンを強く抱きしめ、ゆのが涙を流します。

 

「いとおしい。この上なく、いとおしい。

ジェジュン。そなたに出会えて、愛しあえて幸せだ。

 

もう、離しはしない。命の限り愛そう。そして、ともに逝こう」

 

 

翌朝、

離れには、まるで眠っているようなゆの様の亡骸がありました。

 

庭に咲き誇っていた桜の大木は、

一夜で、すべての花びらを落とし、命を終えたような佇まいでした。

 

ゆちょん僧正が、枝に触れてみると、ばきっばきと折れてしまいました。

 

「さても不思議な。

一夜で花が落ち、水気が抜けて、枯れ木と成り果てるなど、あり得ぬ事だ。

 

美しく妖艶な桜の木よ。ゆの様についていったのか?

ゆの様は荼毘に付さねばならんが、そなたを燃して送って差し上げよう」

 

じゅんすの知らせで、菩提寺に駆けつけたちゃみ。

 

ゆちょん僧正が、念仏を唱える中、じゅんすと荼毘を見つめます。

 

木々が焼き崩れ、火の粉が舞い上がった光のなかに、

寄り添うゆのとジェジュンの微笑む姿を垣間見ます。

 

ちゃみは尋ねます。

 

「兄者は・・幸せであったのだな」

 

「はい」

 

じゅんすが、しずかに答えます。

 

 

儚げに咲き誇る桜の花吹雪 

 

魅入られたのは・・・誰?

 

桜の花びら舞う 幻想の世界

 

 

さあ、ここらで物語の幕を下ろしましょう。

それでは、皆様ごきげんよう