語り部アロマが紡ぐ

「桜夢 第一夜」聞いていかれませんか?

 

時は平安 大江山には鬼が棲むと人々は信じていた時代でございます。

陰陽師が運命を占い、呪術で魔を払うことが常であったこの時代、

 

京の山間の鷹司家菩提寺に、樹齢三百年を越す見事な桜の木がございました。

 

その桜の大木が、枝のすべてに薄紫色の花を咲かせ、風に花びらを拭き散らかせる様は、ため息が出るほどの美しさでございました。

 

この桜の花が見事な時に合わせ、鷹司家先代の三十三回忌の法会が執り行われました。

僧正たちの念仏と、写経の奉納、先代の忌上げの宴が菩提寺で続きます。

 

まだ十一歳のゆの様は宴の初めに親族に紹介されました。

 

「我が鷹司家の跡取り、ゆのでございます。弟のちゃみはまだ幼いゆえ、この場は遠慮いたしております。まだ若輩者ではありますが、長男のゆのが、ご挨拶させていただきます」

 

鷹司家当主に紹介され、浅黄色の直衣を纏ったゆのは父の前に座し、親族に向かい深くおじぎをいたします。

 

「ご臨席の皆々様、この度は先代の法会にお集まりくださり感謝いたします。百年続く当家の跡取りとしてご挨拶させていただきます。まことにありがとうございます。

人は死して三十三年の弔いがすむと天に昇れます。このような喜ばしい法会を迎えられたのも、ひとえに盛り立ててくださる皆々様のおかげと感謝申し上げます。

今日は祝いの宴になりましょう。どうぞ心行くまで酒を楽しまれてください。

 

ゆのはまだ十一歳でございますれば、この挨拶をもって失礼させていただく無礼をお許しください。では失礼いたします」

 

深々とおじぎをし、退席するゆの。

 

「頼もしい跡取りがおられ、鷹司家は安泰じゃ」

 

「まだ少年のあどけなさが面立ちに残っているが、あの凛々しい目はお母上様譲りでしょうか。

清々しい、よい目をされている」

 

「ゆの殿は、文武両道に秀でていると聞き及びまする。うらやましい限りでござる」

 

自慢の息子を褒められてご満悦な鷹司家当主。

宴は夜半まで続きました。

 

大役を終え、退室したゆのは、身の回りの世話をするじゅんすに着替えを手伝ってもらっています。

 

「ああ、疲れた。無事、口上が言えてよかった」

「ふすまのこちらで伺っておりましたが、見事でございましたよ」

 

「そうか。これでも退出するまですごく緊張していたんだぞ。あははっ」

 

じゅんすは16歳、年が近く幼い頃から一緒に過ごすふたりは、気心のしれた仲でございました。

 

「ああ、ちゃみは寝たのか?」

「はい。母上様と同じふとんで。お寺は怖いそうです」

 

「ははっ。かわいいな。まだ七つだからな。んー。私も寝よう。今日は疲れた」

「はい。ゆの様。床は用意してございます」