語り部アロマの紡ぐ
「バンパイア one kiss」聞いていかれませんか。
寒気際立つ北欧
トランシルバニアの薄雲立ち込める深い森の中、蔦の蔓絡まる古城がありました。
厚いカーテンが閉じられ、蝋燭の灯りでセピア色に照らされた室内。
襟元の大きく開いた黒いローブから美しい鎖骨が見え、サラリと音を立てて歩む少年は、カーテンを開け窓の外を眺めます。
窓の外は冬木立の森。
夜空は雲に覆われ星の輝きは隠されています。ほのかに月の銀の光が振りそそぎ、ぼんやりと樹のシルエットを浮かび上がらせます。
「チャミ兄様。外に出てもいい?森の中を歩きたい」
黒いクラシックスーツを纏った長身を、真紅のソファーにゆったりと沈め、長い足を組ませた男が顔をあげます。整った顔立ちに、黒い瞳は強い力を感じさせ、黒髪はきちんと整えられています。
「ジェジュン。夜の森は飢えた狼がいる。塀の中の庭なら出てもいいですよ。
外は冷える。この毛皮を羽織っていきなさい。私がワインを飲み干すまでには戻って来ること」
襟元にたっぷりと毛足の長い銀毛のファーがついたコートを着せながら
チャンミンはジェジュンの額にキスをします。
「ありがとう。兄様」
にっこり微笑むジェジュン。
「本当に毛皮がよく似合う。とても美しいです。私のジェジュン」
グラスに赤ワインを注ぎ、ウインクするチャンミン。
ジェジュンは頬を赤らめてドアを開け
「チャンミンだって、かっこいいもん」
小さな声でつぶやき部屋を出て行きました。
コツ、コツ。
庭の石畳を歩きながらジェジュンは空を見上げます。吐く息が白く、ジェジュンはふるっと身体を震わせます。
「あっは。雪が降ってきた。思ったより寒いや」
雲の切れ間から月が現れ、銀色の光がジェジュンの姿を照らします。
髪先を遊ばせた黒髪に雪が舞い降り、長い睫毛に縁取られた印象的な黒い瞳はきらきら輝いています。銀毛のファーが覆う頬は白く滑らかで紅い唇が華やかです。
類まれな美貌を持ったバンパイアの兄弟、チャンミンとジェジュンは、長い間ふたりっきりで暮らしていました。
時は流れ、21世紀の東京
高層マンションの一室に、チャンミンとジェジュンの姿がありました。
「チャミ兄様。こんな都会で暮らしていいの?」
「この『東京』という街は情報も娯楽も多いし、獲物も多い。なにより隣人に無関心なのです。ですからここを選びました。
ああ、トランシルバニアの古城は、観光会社に売ってきました。吸血鬼ツアーに使ってはいかがと勧めたら、60億円の値をつけてくれましたよ。
昨今、映画の影響で世界的に吸血鬼ブーム、時期がよかった。なにしろ本物のバンパイア城ですから、遠慮なくお金は受け取りましたが」
「僕たち、年を取らないよ。周りの人にばれたりしないかな?」
「髪の色を変えたりカラーコンタクトで印象を変えられます。大丈夫。
ただ映像に姿が残らないよう配慮したほうがいい。あとで監視カメラの死角などを教えましょう。
ああ、街に出ても知らない人についていってはダメですよ」
ちょっとむっとしてジェジュンが答えます。
「僕だってバンパイアだ。先見の能力だって、力だってある。テレポーテーションだってできるもん」
チャンミンがくっくっと笑って答えます。
「そうでしたね。いつもかわいらしいから忘れていました。
そろそろ自分で狩りをしてみますか?半年に一度血を吸わなくてはいけない。今度は3ヶ月後ですね。
もう私の狩ってきた血を分けてあげたりはしませんよ」
「えっ、僕が自分で狩りに・・。3ヶ月後・・わかった。やってみる」
次へ続く。