西山孝の『資源クライシスの深層』

世界が直面する金属資源問題 ~中国などの近代化を支えきれるか~

(日経BP200932日)

http://premium.nikkeibp.co.jp/em/column/nishiyama/03/index.shtml

http://premium.nikkeibp.co.jp/em/column/nishiyama/04/index.shtml


(抜粋)

爆発的な需要増に対応できない金属資源

 金属鉱山は、5年や10年単位の計画で開発を進めるために、爆発的な需要増加にすぐに対応できない。鉱山は急激な経済変化に対応できるような体制にない。

 端的な例として、タンタルの需要が伸び、一時は供給が追いつかない状態になった。ただし、タンタルは50年以上の耐用年数(埋蔵量をその年の生産量で割った数値)があり、携帯電話の生産も安定したため混乱は大きくならずに済んだ。



暗中模索の製錬技術と遅れる低品位鉱調査

 これまで、廃棄物として扱っていた低品位のメタルを商業ベースに乗せられるかどうかは、製錬技術が大きく影響する。銅の多くは、数%の銅が含まれる硫化銅を製錬し、硫黄を取り去る。足元に転がっている石にも、0.005%(55ppm)程度は含まれる。だが、銅が含まれていることと、銅として取り出すことができるかどうかは別の問題で、製錬できるかどうかが問題だ。現在のところ、我々は0.005%の銅を鉱石から取り出す技術を持っていない。


戦後日本の近代化パターンとベースメタルの需要モデル

 鉄のようなベースメタルとタンタルなどのレアメタルの需要予測は、その考え方が大きく異なる。ベースメタルには長い需要の歴史があり、先進工業国がたどってきた技術文明の発展段階とメタル需要を調べることによって、ある程度の予測がつくからだ。


戦後日本の成長曲線は現在の中国、インドに当てはまる

第二次世界大戦以降、変遷を遂げた日本の産業構造に伴うベースメタルとエネルギー消費量のパターンを参考にすれば、新興各国のメタル需要がある程度予測できる

 現在発見されている銅の耐用年数は25年。10億人以上の人口を抱える中国やインドが、1970年ごろの日本の1人あたりの消費量に匹敵する量を使うようになれば、供給が追いつかなくなることは明らかだ。需給バランスが大きく崩れれば新興諸国の近代化は遅れ、社会的混乱が起きる。先進国のメタル供給も困難な状況に陥る。


中国、インドの銅消費はこれから伸びる

 現在のところ、インドや中国などの新興国の近代化に備えたメタルの供給体制は考えられていない。これまでのような間に合わせの供給体制だけでは、これらの国々の近代化を支えることはできない。世界規模で金属資源における需給体制の確立を検討する時期にある。世界全体の金属資源を巻き込んだ形で解決していかなければならないし、解決できるかどうか心もとない。


電気自動車開発によるレアメタルの需要増

ベースメタルとレアメタルの需給予測は、まったく異なる。科学技術の発展によって、携帯電話や薄型テレビのような新たな製品が生まれるが、世界的に急増する製品生産へのレアメタル供給は困難だ。レアメタル鉱山の多くは非常に規模が小さく、急な需要増に対応しきれない。

 科学技術の発展によってどのような製品が発明されるかは、ほとんど予想できない。経済のグローバリゼーションが進み、世界全体が一つになって動いている現在、特定のレアメタルを使用する製品が爆発的に大量に生産されれば、レアメタルの価格は高騰し、しばらくすると下落し落ち着く。既存のレアメタル鉱山の生産量が限られ、新しい鉱山が開山し生産を始めるまで、急激な需要増には対応できない。

 レアメタルの需要には、科学技術の発展のほかに政治的、経済的な問題が大きくかかわる。例えば、自動車排気ガス規制や、温室効果ガスの排出削減などの政策は、レアメタル需要を増加させる。

 電気自動車の開発を推進すればモーターや電池をはじめとする電気・電子部品が増え、そこに使用されるレアメタルは急激に増加する。ある程度の開発にメドがつき、需要の増加が予測される場合は、国策としてレアメタルの供給体制を考える必要があろう。

 レアメタル鉱床を調査すると同時に流通体制なども調査し、メタル需給バランスを考慮したうえで、新技術や製品開発、生産を考えるべき時期に来ているのではないだろうか。