当時、友人〈T〉の家は、中学校時代の学区は同じなのですが、私の家から自転車で45分という時間を要する地区にありました。
信号などなく、舗装の所々が剥がれた山際の細くうねった道を進み、車通りなどないに等しい峠の麓に存在する《集落》と言っても過言ではない所でした。
私たちの住む地域は、山間部の小さな町です。
彼の家は、そんな山間部の1日に3本しか運行しない路線バスの終点でもありました。
〈T〉とは通う高校も同じで、次の日が休日ともなれば、下校時に私の家を通り過ぎて、そのまま彼の家まで──というパターンが毎度と言ってもいい程に発生しました。
高校2年の夏の事です。
夏休みも中盤を迎え、私は〈T〉の家に連泊していました。
〈T〉の部屋は母屋から離れた倉庫内にあり、家族との関係も部屋の位置が示しているかのように、遠く薄いように当時の私は感じていました。
でも、彼の母親だけは私を歓迎してく
れているのでした。
〈T〉とは、主にインドア系の遊び興じていました。
連休ともなれば時間など関係なく、眠りたい時に眠り、どちらともなく目覚める感じで、ただ時間だけが溶けていきました。
その日も、私たちは数本のアニメ鑑賞を終え、気づくと時刻は深夜に移っていました。すっかり夜更かしが常となっていた2人でした。飲み物を求め、いつものように自動販売機へ飲料水を求め深夜の屋外に出ました。夏といえども陽が沈めば、山間地域は肌寒く感じる程の気温まで下がります。
外気に晒されたTシャツの腕を摩りながら、極端に外灯の少ない夜道を歩き、光源に集る羽虫を払いながら、冷えすぎた缶ジュースをシャツに包みます。
蛙の声は賑やかでしたが、深夜である為、幾分か声を殺しぎみに、私たちは自動販売機までの道をゆっくりと引き返しました。
やがて〈T〉宅のシルエットが近くなると、私は何か《違和感》を感じました。母屋の前庭に通じる大きな石の門柱の手前を通り、部屋のある倉庫に向かうのですが、それに従い《違和感》は、やはり大きくなってくるのです。
”やけに明るい?”
正面ーやや上方向から投げかけられる「光?」
ふと顔を上げると──〈T〉の家の裏側は山肌が迫り、荒々しい岩肌が剥き出した断崖になっているのですが、その一部から眩いほどの輝きが放たれていました。
目を細めて焦点を絞ると、その光源は小さな《祠》でした。
自然岩の断崖に、足場と呼ぶには余りにも頼りない木の板が、岩に穿たれた楔の上に並べられ、その先に小さな祠が絶妙なバランスで配置され(祀られ)ているのでした。
その祠が輝いている──
私は、倉庫のシャッターを潜ろうとしていたTを引き留め、
「アレ、光ってるよ」
と、Tに祠を見るように促しました。
Tは私のが指し示す方向を見上げると変化に気づいたのでしょう、絶句していました。
「誰かがローソクを灯したのかな?」
と、暫しの沈黙を破るように私が呟くとTは即座に否定し
「あんな所、誰も行かない」
と、言った後
「誰も行けない」
と言い正すのでした。
小さな祠は金色の光を放っています。
燦々と輝く太陽のように眩ゆく──
光の粒子が溢れる毎、ウィンドチャイムの音色でも響かせそうな荘厳さで。
それは美しくも怪しい光景でした。
私たちは動けず、呆けたように金色に輝く祠を見上げていましたが、不意に喉の渇きを思い出した私の、コーヒー缶のプルトップを弾く音で緊張が崩れ、呪縛から解放されたかのように、私たちは無言で居室に続くシャッターを潜りました。
この夜の現象は、部屋に帰っても特に話題になる事はありませんでした。
そして、私たちは再び自堕落な休日を過ごすのでした。
