火星沖会戦
西暦2197年1月、国連本部は宇宙軍総省長官を招き今後の対策について協議していた。地球に侵略攻撃を行っている未知の敵は無差別に遊星ミサイルの攻撃を続け、このままでは遠からず地球は汚染され人類は全滅するであろう。人類に残された選択は、徹底抗戦か移住の二者択一しかなかった。
1月9日、標準時間9時、国連本部事務総長室に3人の最高幹部が討議を始めた。クリストファー・ジョーンズ事務総長、エルク・シュナイダー宇宙軍総省長官、東堂平九郎極東管区行政長官。次期戦略について移住計画を円滑に進めるために、火星沖の制宙権を確保することが絶対条件となる。そのためにも火星アルカディアシティーの再建が急務となっている。そのために地球の残存艦隊を再編成し、連合艦隊を発足させて艦隊を出撃させなければならなかった。現在地球に残っているのは北米は20、中国12、ロシア9、オーストラリア95隻合計128隻であった。シュナイダー長官は地球の存続をかけた一戦に連合艦隊を再編成すると同時に極東艦隊の出撃を発令した。極東艦隊の出撃は10年ぶりでこの間の扱いについて極東管区としては不本意であり、説明を求めた。シュナイダー長官の説明では先代の事務総長と宇宙軍総省長官は極東の科学軍事力を高く評価しており、地球が万が一の事態に陥った時の最後の手段として温存することを秘密裏に決定していた。
1月10日、極東管区に戻った東堂長官は沖田・土方両少将と芹沢軍務部長を呼び出した。この時点で沖田・土方両少将は火星沖会戦の参戦を予測していた。本部に向かう輸送機の中で二人は激論を交わしたいた。
「沖田、この闘いの参戦は極東にとって大きな分岐点となる。宇宙空間用戦闘機が極秘に開発されて二年、科学技術局の話しでは戦艦を艦載機搭載に改造するには5年はかかる。旗艦ゆきかぜだけでも艦載機用に改造すべきだ。」
「土方、たしかに航空戦闘の必要性は十分理解している。しかし、空母1隻だけでは戦力差は縮まらない。それより、新型レーザー水爆ミサイルを主力にした方が優位ではないか?」「それは俺も承知している。空母を2隻用意できればミサイル爆撃の補助になる。時間が欲しい。」
沖田は輸送船の窓の外に映る変わり果てた富士山を見ながら「たしかに時間が足りない。わしは火星中域奪還よりも200隻の戦艦を移民船に開放した方が良いと思う時がある。」
沖田の言葉は恐らく正しいのだろう。しかし地球連邦は火星中域奪還にこだわっていた。土方も腕組みをしながら、富士山を眺めていた。
午後5時、本部に到着した両提督は行政長官室に入っていた。すでに田中軍務部長も到着していた。ソファーに座った二人は地球連邦政府及び国連宇宙軍総省の極秘文書を渡された。一読した沖田は「長官!これは玉砕せよということですか?」と激しく詰め寄った。土方は無言で腕組みをしたまま、上を見上げていた。
「両提督、よく聞いてほしい。政府と総省は火星中域奪還が至上命題としている。両提督のの思いは理解できるが、地球にとって最後のチャンスなのだ。情報局によれば敵は土星のタイタンから艦隊を引き返していることがわかった。」「長官、その情報は確かなのですか?陽動作戦の可能性はあります。」土方が情報局の信頼性を疑ったが、沖田は「命令とあらば戦います。しかし、極東艦隊の裁量権は保証をお願いしたい。」と藤堂長官に確約を迫ったが、田中軍務部長は「沖田少将、藤堂長官の心労も察してくれないか?全て理解していながら、あえて両提督にお願いしているのだ。極東艦隊の裁量権については私が総省長官に掛け合ってみる。」
沖田と土方は行政府を出た後、士官クラブでなく最下層にある居酒屋「まほろば」に立ち寄った。極東管区は遊星ミサイルの被害は少なく、地下都市は他の都市より設備は充実していた。有害物質の侵食も他の都市よりも遅く、食料事情も豊富で他都市への供給も行っていた。
「土方、この作戦は危険だ。総司令官はオーストラリア管区のロムスキー大将という実践経験豊富な司令官だが、中国と北米が嫌っている。統制が乱れれば勝目はない。」
「そのとおりだ。田中軍務部長には失望した。しかし、ロムスキー司令長官はどんな陣形をとるのか?それによって俺たちの運命も決まる。」
「中国と北米が猪突すれば負ける。それにどうも情報局の情報は信用できない。お前がその司令官ならこの時期に冥王星に艦隊を戻すか?」
「俺ならば囮だな。そして一気に潜在的な戦力を排除する。」
二人は二時間ほど今次の戦略を酒菜にしながら酒を飲んでいた。
1月11日、執務室に入った沖田は乗務員リストを見たいた。そこに土方が入ってきて。翌日の午前9時よりオーストラリア管区宇宙軍司令部で緊急幹部会議が開催されることを伝えにきた。
「ずいぶんと緊急だな!何かあったか?」
「さぁ~。ともかく俺たちの主張は強く求めることだ。出立の準備をしてくれ!」
1月12日9時よりオーストラリア管区宇宙軍司令部でc号作戦の戦術会議が始まった。C号作戦総司令長官ロムスキー大将(オーストラリア管区)参謀長グリーンヒル大将(北米管区)第一艦隊司令官兆光林大将(中国管区)第二艦隊司令官ロックウェル大将(北米管区)大将クラスのメンバーが座って議論を始めた。まず、グリーンヒル参謀長からc号作戦の概略が説明した。
「さる1月5日、月面ルナシティーの観測衛星が捉えたタイタン付近の艦影を情報局が分析したところ、冥王星基地への帰投であると判断した。この報を受けた国連宇宙軍総省は火星中域奪還のチャンスとしてc号作戦を発案したものです。まず陣形としては第一艦隊が先鋒となりアステロイドベルトまで紡錘陣形とします。後方は今次新たに参加する極東艦隊を配置します。」
参謀長の説明が終わると各提督の論戦がはじまった。口火を切ったのは兆大将である。
「先陣は第一艦隊が務めることは当然として、戦歴の無い極東艦隊がなぜ最後尾なのか?そもそも極東艦隊の実践配備自体が疑問である。」
「兆大将、我々は極東艦隊の働きに期待している。実際に空間防衛は極東管区が行ってきており、遊星ミサイルの攻撃や敵の偵察機を全て破壊している。実戦配置は当然である。」ロムスキー総司令長官は極東艦隊の実績を披露したが、北米のロックウェル大将は「ふん!」と鼻を鳴らしロムスキーを馬鹿にしたあと口を開いた。
「我々北米はどんな陣形があろうと誇りある戦いをする。最新鋭のイオンプラズマ砲を装備した艦隊を用意している。それで敵を圧倒する!」
これを聞いた土方は舌打ちをし、「相変わらず、北米や中国は大艦巨砲主義だな。航空機戦力が重要なのに!」
議論は陣形の課題から敵軍の情報に移りさらに各艦隊の自慢話にうつっていた。三時間に及ぶ会議は終了し、出発は2月1日地球標準時午前6時、ルナシティー集結時間は午前11時と決した。議場を出た二人をロムスキー総司令長官が呼び止め執務室に来るよう命じられた。オーストラリア管区宇宙軍司令部は、極東と比較し狭く、エネルギー供給も不安定であった。沖田と土方は執務室に入り敬礼をしたあとソファーに座った。
「沖田君、土方君、すまんなー!君たち二人の空間防衛攻撃の実績は非常に高く評価されるべきなのだ。私は火星沖に戦場を設定し、極東艦隊を左翼に配置しようとしたが、参謀長が強行に反対した。」
「200年前の国家主義を未だに引きずっている中国や北米が主導権を握っているかぎり、状況は好転しません。」土方は諦め半分力なく発言した。
「うん。大国主義は統制と規律を乱す。沖田君、土方君、いずれにせよこの戦いは極東艦隊がキーマンなのだ。したがって司令部に何かあった場合は頼む。」