車椅子を押してもらって、ラウンジに到着。一番手前のテーブル脇に車椅子をつけて、ひとまず移動完了。

 

しばらく座っていると、

看護師さんが、「もう、患者さんを移動しましたから、お部屋に戻っても大丈夫ですよ」と言う。

「えっ」「移動したんですか?」「はい、あの患者さん、別のお部屋に移しました。今から戻りますか?」「・・・・・・」

 

 なんか、複雑な気分だった。

 

もう、大声の叫びには悩まされなくて済むけれど、何だか、私があの患者さんを追い出してしまったようで、何だか、気が咎める。彼女だって、何も好きで叫んでいたのではないから。でも、あのままでは、確かに他の患者さんも耐えられないだろうから、当然の処置だと思うけれど・・・。

 

「もう少し、ここに居させて下さい。」お迎えを断って、しばらくラウンジにぼーっと佇む。

 

 ラウンジから部屋に戻ると、向かいのベッドには、まだ荷物が置いてあった。ベッドだけが移動された状態。しばらくして、家族らしき人が、入ってきた。多分娘さんだろう。荷物をまとめている。ベッドだけが無くなって、ぽかんと空いた空間の端に、まとめられた荷物の袋。その人は、なかなか立ち去ろうとはせず、泣いていた。しばらく泣いて、泣きながら荷物を持ち上げ、やがて出ていった。

 

 もしかして、もしかして・・・・あの後、あの患者さん・・・

嫌な想像が湧き上がる。

 

 予後宣告をされたとか。 それとも・・・

もしかして、もっと最悪なことが起きたのでは??

 

「やっと静かになったわね。あの人、どこの部屋へ行ったのかしら」一番古くからいる、同室の患者さんがおっしゃる。

「お嬢さんが泣いていらっしゃったけれど、もしかして・・・」

と不安を隠し兼ねて言うと、

「いやー、そんなことはないわよ。それはない。あんなに大声が出るんだから、きっとどこかの部屋にいるんでしょう。

私と同じ病気なのよ。」

 

 でもでも気になって、看護師さんにもそれとなく、聞いてみる。答える雰囲気からしても、そんなことはなさそうなんだけれど、それでも、心の中に引っかかって仕方がない。底知れない不安と恐怖といったらいいのか。

 早く次の患者さんが入院してこないかな。

 ベッドはまだ塞がらない。