彼女は錯乱したのは、もちろん彼女の心身の問題だけれど、

私のことも引き金になってしまったかもしれないことを感じていた。

 昨日の昼間、私は検査の帰りに足が動かなくなって、主治医が飛んできて、私のベッドサイドには歩行器と車椅子が置かれることになって。歩行器の脚のキャスター部分だけカーテンから見えることが、彼女からしたら、看護師さんが私の方にいると思ったのに違いない。

 

 でも、もう部屋を移動したので大丈夫?・・・と思ったのもつかの間。そう簡単にはいかなかった。

 

 向かいの患者さんは、また午前中に部屋に戻って来た。

どうやら、夜の消灯後から朝までの間だけ、他の部屋に移動して、また朝に戻ってくるということらしい。次の日の夜は、消灯時間を過ぎても、移動のお迎えがなくて。ずっとこうなのかな。

 

少なくとも、日中はずっとずっとこの部屋にいらしゃるわけで・・・。

 

私も心臓に水が溜まっているせいか、息が苦しい上に、咳が出ると止まらない。それに自律神経がやられているので、音も振動も何もかも、何もかもが苦しかった。

 

 初めは、かわいそうと思って、とても深く同情していたけれど、それがいけなかったのかも。

 

 毎日1日中、何回も何回も繰り返す、ネガティブのワードを

聞かされているうちに、いつのまにか、私の頭の中が、ネガティブな言葉が乗り移ってしまった。

 

 いつのまにか私も彼女と同じ言葉を自分に繰り返し繰り返し、言っているのに気がついた。えっ、何これ?

 

 私は、何かものを床に物を落とすたび、お湯をこぼすたび、

「あーもう、ヤーだ〜」と何度もつぶやいている。

 

 確かに、何かしようとすると、手がうまく動かないので、床に物が落ちる。その度に、拾わなければいけないのが、またしんどい。

 この声は確かに私の声、自分で自分に向かって言っている。

心の中? いや頭の中? 私は、向かいの患者さんと同じ状態になっているでがないか。洗脳って、こういう風にされていくんだな。どうしたらいい? 早くこの呪いを頭の中から追い出さなければ。それに、あの大きな声にも、ボイラーの振動音にも、もう限界。

 ラウンジに逃げるしかない。ナースコールをする。