個室から引っ越した4人部屋は、私以外すべて多発性骨髄腫の患者さんだった。お隣と斜め向かいの2人の患者さんは基本的にカーテンをいつも空けていて、テレビを見たり、本を読んだり、静かに過ごされていた。でも、1つのベッドだけ、1日中カーテンを閉めっぱなしだった。
時々、看護師さんとの話声がするが、相当の高齢なのか、身体が動かせないのか、きっと、相当具合いが悪い方なんだろうなと思っていた。
時々、そのカーテンの向こうから、看護師さんとのやりとりが聞こえ始める。だんだん、患者さんの声が大きくなったからだ。
それから頻繁に看護師さんに文句を言っているのが聞こえる。看護師さんが採血しようとすると「痛いい〜!!!!」と異常に大きな声で叫ぶ。看護師さんがカーテンの中に入ると、「何で、あんたがくるの!!。あんたは嫌い!いやっ、触らないでよー!!、他の人に変わって」。
彼女の苛立ちが時間ごとに強くなっていった。
その叫び声は、日に日に大きくなり、看護師さんも大変だと
看護師さんが気の毒になる。でもそれだけ病気の進行が酷いということなのだろうな、本人も辛いだろうな。最後が近いのかな、とか、心が痛む。
「あの人、最近急に悪くなったのよね。」「まだ、そんなに高齢の人ではないのよね。」と同室の患者さんたちが、そっと私に耳打ちしてくれた。
「かなり具合いが悪そうですね」と私がいうと、
「うーん、でも、娘さんが来ている時は、普通に話しているし、そうでもなさそうなのよね」「・・?」
なるほど、そう言われてよくよく観察していると、確かにそうも言えなくない。
そして、この翌日、事件は起った。