これまで生きてきて、『お酒を飲んできてよかった』と思うことは記憶の限りない。それなのに、また飲んでしまう。飲酒欲求を抑えるためだけに酒を飲む。そして次の日、飲んでよかったとはならない。
毎日、そんな矛盾と自己嫌悪のループの中にいた昔の自分。「自分の意志が弱いからだ」と自分を責めるときもあった。
しかし、それは違っていた。
脳が、アルコールという薬物に見事に「ハッキング」されていたのだ。
なぜあんな不条理なループにハマり込んでいたのか。
仕組みがある。
1. 飲む直前が一番苦しい
お酒を飲む直前、異常なまでにそわそわしていたあの時間。人間の脳には、ワクワクを作る「ドーパミン」という物質がある。この物質は、実は「手に入った瞬間」よりも、「それが手に入ると分かった直前」に最も大量に分泌される。スマホゲームのガチャを引く直前の瞬間が一番興奮するらしい。脳が「今から酒が来るぞ!」と察知した瞬間、脳内は大興奮状態になる。そして「早く飲め!」と猛烈に急かす。これが、飲む直前に訪れる強烈な欲求の正体だ。
2. 飲んだ直後の衝撃
いざ酒を口にして「一口目が一番ガツンと快感が来る」と感じていたのも、完全に正しい。酒はただの飲み物ではない。脳に直接作用する「薬物(化学物質)」だ。酒が脳に届いた瞬間、アルコールは脳のスイッチを力ずくでオンにする。データを強制的に書き換える「裏ワザ」を使うようなものだ。直前のワクワクをさらに超える、強制的なドーパミンの大放出がここで起きる。だからこそ、一口目は救われたような気持ちにななる。
3. スーッと収まり、ボーっとする
さっきまであんなに苦しかった「飲みたい!」という欲求が、スーッと消えてラクになる。ここから、アルコールによる「脳のシャットダウン」が始まる。酒は脳の機能を、外側から順番に麻痺させていく。まず、理性のブレーキが壊れる。「周りの目が気になる」という真面目な部分が麻痺する。不安センサーがオフになり、一時的な「無敵感」が生まれる。さらに酒が進むと、考える力も麻痺し、頭がボーっとしてくる。これは楽しいのではない。脳に軽い麻酔がかかった状態だ。
4. 酒は「プラス」をくれない
冷静に振り返ってみれば分かるはず。酒を飲んで得られる「あぁ、ラクになった」という感覚。これは何かがプラスになったわけではない。酒が作り出した「飲みたいという苦しみ(マイナス)」を、飲むことで一時的に「ゼロ」に戻しただけだ。借金を返すために、別の場所から借金をして、一瞬だけ財布が潤った錯覚に陥っているのと同じである。
そして脳の神経が順番に麻痺していき、最後は考えるのをやめさせられているだけ。翌朝に麻痺が解けたとき、「飲んでよかった」などと思えるはずがないのだ。
酒が生きがいだったかつての自分
あの猛烈なループから抜け出すのは、当時の自分にとっては不可能なことに思えたはずだ。しかし、仕組みを知れば戦い方は変わる。客観的に見られるようになれば、その波はやり過ごせる。
毎日泥酔していたあの頃から、僕はお酒をやめて、もう8年になる。かつては飲酒欲求に振り回され、翌朝の後悔を繰り返していた。しかし、あの不条理なループを抜け出した今、心の底からこう確信している。お酒に脳をジャックされない人生は、信じられないほど穏やかで、クリアで、快適だ。そして楽ちんだ。
酒やめてよかった。

