昔、アルバムの写真を破いて捨てた。ランドセルを踏みつけたこともあった。この頃、私はストレスでいっぱいだった。
ランドセルを踏みつけた時、母は「どうしたの」とは訊かなかった。私の心を覗いてはくれなかった。母は被害者になるのが得意だった。涙を流す姿を私に見せつけて、親を悲しませた罪悪感を私に植え付け、「こんなことをしてごめんなさい」と私の口から言わせることに成功した。
食事の集まりになると人の前でしゃべる。「あの時わたしが大事にしてたアルバムを捨てられた」
あの頃、私の心の中がどうだったかなんて、母の眼中にはない。「大切にしていたものを壊された被害者」であることに夢中なのだ。この世にはもう存在しない、自分が手をかけて作った作品であるアルバムを、頭の中でいつまでも恋しがり、それを壊した私をいつまでも責めつづける。
母は、いつも、どこを見ているのだろう、と時々思う。アルバムの中の写真に写っていた人間が、今自分の目の前にいる人間だということに、たぶん母は気付いていない。