「では、今日はこの辺で。ごめんなさいね、こちらから色々とお願いしているのに」
「いえ。こちらこそ、お時間を取らせてしまって申し訳ありません。こちらの件はまた持ち帰って色々と検討してみます」
時計をちらりと見たSAKURAさんにつられて時計を見たら、予定の時間を15分以上もオーバーしていて、慌てて書類をまとめて立ち上がる。
「急かしてるみたいになって、ごめんなさい。そんなに慌てなくて大丈夫です。プライベートな予定だから.......」
「だったら尚更、です。遅くなってしまって、本当にすみません」
書類をガサッとまとめてカバンに突っ込んで、立ち上がった俺を見てSAKURAさんがふんわりと笑う。
「相葉さんだったら良かったのかもなぁ」
「.......え?」
「相葉さんみたいな人だったら良かったのかも」
「俺みたいな人って.......?」
突然、砕けた口調になったSAKURAさんにびっくりして、思わず聞き返した俺に楽しそうに笑ったSAKURAさんが首を傾げてからまた口を開いた。
「相葉さんって、仕事も頑張るけど周りの人とか、自分の生活もちゃんと大事にするでしょ?
相葉さんのデザインを見た時に、この人は優しい人なんだろうなぁって思ったの。
会ってみたら本当に優しくて、真面目で、私のこともすごく気遣ってくれてて.......
私、そういうの全然出来ないから、すごいなぁって思って。
失礼な言い方になるかもしれないけど、良い旦那さんとか奥さんって、相葉さんみたいな人のことをいうのかなあって思ったりして.......
エンゲージリングとかマリッジリングとか作ってるのに、自分は結婚に向いてないなぁってつくづく実感したって言うか.......」
ここで言葉を止めて、俺をちらっと見てからうふふ、と笑う。
「こんなこと、聞かされても困っちゃいますよね?私もなんでこんなこと言っちゃったんだろうっ思ってます、今!
ってことで、今の話はなかったことに!
じゃあ、また.......次回の打ち合わせ、楽しみにしてます!お疲れ様!」
「あ、はい!お疲れ様でした!失礼します!」
寂しそうな楽しそうな、なんとも言えない不思議な笑顔をしたSAKURAさんに、ちょっとだけ胸が痛んだような気がしたけれど、あんまり深く追求しちゃいけない気がして、急ぎ足でSAKURAさんの事務所を後にした。
「『結婚』かぁ.......」
SAKURAさんの言葉が妙に引っかかるのはきっと、櫻井さんの事があるからで.......
櫻井さんとSAKURAさんが似たようなことを言っているのも偶然でしかないんだろうけど。
結婚に向いているとか向いていないとか、俺はどっちなんだろ?なんて考えたって答えなんて出るはずもなくて。
そもそも、そんなことに答えなんてないだろうし、結婚したいと思える人がいない俺には、全然縁のない話題なんだけど。
「お、今帰り?直帰じゃなかったんだ?」
「あ、はい.......また宿題たくさん出たんで.......」
ほぼほぼ無意識の帰巣本能で会社に戻ったところで櫻井さんと鉢合わせするとか、ビックリしすぎて足が止まった。
「まじで!毎回大変だな.......でも、きっと雅紀なら相手をうならせるやつ、作れんだろ?
昼も言ったけどさ、落ち着いたらまたうまい酒奢ってやるから頑張れよ!」
ほんと、自分が単純すぎて嫌になるんだけど.......
「はいっ!約束ですよ!めっちゃ美味いやつ!」
「あはは。任せとけ!じゃあ、お先」
俺の肩をぽんって叩いて、片手を挙げて挨拶してくれた櫻井さんに、ぶち上がったテンションのまんまで両手を挙げてぶんぶん手を振り返した。