「……え……」
何が起こったのかと目の前にある相葉くんの顔を見つめた。
相葉くんは唇に手を当てて微笑んで、さっと立ち上がる。
「じゃあね」
ひらりと手を振って、あっという間に公園を出て行こうとする後ろ姿を呆然と見送った。
もう会わないんじゃないかって、そんな気がしたのに
追いかけた方がいいんじゃないかって、そんな気もしたのに
動けずにいた間に、細い背中はあっという間に視界から消えていった。
「……これ……返さなきゃ、な……」
自分の左側に置いたままの弁当の包みを見下ろして呟く。
相葉くんに返さなきゃ。
いや、相葉くんじゃなくて、智くんに、か?
無意識に自分の唇を指でなぞる。
……結局、相葉くんは何が目的だったんだろう。
「……わっかんねぇなぁ……」
缶に残ったコーヒーをひと息に飲んで、そのままベンチの背もたれに身体を預けて空を見上げた。
「腹立つくらい、いい天気だな」
声に出して呟いて、笑う。
ふと感じた人の気配。
近づいてくる足音に、ゆっくりと身体を起こす。
公園には不似合いな厳ついスーツ姿の男。
「……マジかよ」
してやられた、と、笑いがこみ上げる。
「櫻井翔さん、ですね?私は……」
手を内ポケットに伸ばしたそいつの言葉を手を挙げて遮った。
「俺のマシンにやばい履歴でも残ってましたか?」
「……話が早そうですね。ご同行願えますか?」
ちらりとゴールドのエンブレムのついた手帳を俺に見せたそいつが、にこりともせずに言う。
「任意でしょ?」
「今のところは」
「『今のところは』ね……」
ポケットで震えたスマホをなんだよって呟きながら取り出した。
「返信はしないでください」
「はいはい」
俺を車に押し込みながらそう言うそいつに、電源を切る画面を見せてからスマホをまたポケットにしまう。
『頑張ってね( ´ ▽ ` )ノ』
じゃねぇし。
妙に座り心地のいいシートにもたれかかって、目を閉じた。
相葉くんの目的は、なんだ?
俺を思い通りに動かすこと……か?
残念ながら、そうなるつもりなんてない。
自分の思う通りにいかないからこそ、楽しいんじゃねぇか。
車はやたらとデカいビルの地下に停車して、そこから誰にも会うことなく、長い廊下の奥の部屋へと案内される。
「昨日、とある機関に侵入しようとした輩がいましてね」
「とある機関、ですか」
ビジネスホテルのような部屋の真ん中辺りに置かれたテーブルを挟んで、向かい合って座った男が前置きもなく話し始めた。
「足跡をたどっていったら、櫻井さんに辿り着きました」
「……それ、本気で言ってます?俺がそいつなら、足跡なんて残しませんよ」
「ええ。そうでしょうね。奴の狙いが櫻井さんなら、我々もその手にのってやろうじゃないか、という訳です」
「……あぁ、なるほど」
ギシ、と椅子を鳴らして座り直した男は、机の上に置かれたタブレットを操作してから、にやりと笑う。
「大野智、二宮和也、松本潤……面白い仲間ですね」
「え?」
「これからも貴方がたとは、ちょくちょくお目にかかる事になるかもしれませんね」
「それって、どういう……?」
相葉くんが言っていた智くんの秘密。
智くんだけじゃなくて、ニノや潤にもなにかあるのか?
俺の問いには答えずに、男はタブレットの画面を消した。