「ちょ!…ちょっと待て!」

「今度は何だ」

「それは…俺が、申す」


そう申しながらも、潤士郎は智より離れます。


「そ、その前に、一度身なりを整えよう。裸のままとゆうのは…」


逃げる様に湯より上がった潤士郎は、衣の置いてある大岩へと向かいました。

その背に、面倒臭そうにひとつ息を吐いた智は、仕方がない、と、申さんばかりに、大仰に湯より上がりますと、単衣(ひとえ)ばかりを打ち掛けたる潤士郎の肩に、背後より腕回し、抱き締め、耳許に口寄せ、囁きましてございます。


「だめ。おいらが言う。潤、好き。潤もおいらのこと好きか?」

「な…何を急にそのような…」

「嫌い…か?」

「いや、そんなことはない…じゃ、ないが、だな!」

「おいら、潤、好きだ。だから、潤と、契りたい」


潤士郎が体は雷に打たれた如くに大きく揺れ、支えきれず、そのまま大岩に沿ってずるずると落ち、尻を着いてしまいました。


その背な、皆包むように智も座り込み、申します。


「だめか?」

そうは申せど、潤士郎の腰には、既に智の根、硬きを以って、その在りかを明らかに致しておりました。


「潤…?」


潤士郎、困惑の面、明らかに智を振り返り、小刻みに首振りまする。


「な、何を申しておるのだ…そ、そうか、湯に当たったのであろう。そ、そうだ。そうに違いない…」

「潤、落ち着け」

「うるさい!こ…これが落ち着いていられるか!弟のように思うていた男に、ち…ち、ちぎ…」


潤士郎、泡吹き、倒れてしまいそうな有様にて、絶句致します。


「契りたい」


智、落ち着き払いて再び申しますと、潤士郎は智に背な向け、大岩に縋りて小さく呻きましてございます。





暫くが間、小刻みに震える潤士郎の背な、見詰めておりました智は、静かに語り始めました。


「潤、おいらが悪かった。嫌なら仕方ない。なんで、潤の方が歳下なのに、おいらが弟になんのか知らないけど、もう、それでいい。潤を困らせたいわけじゃないから」


智は潤士郎より離れ、再び湯に浸かると、叢雲に霞む月見上げ、翔の君が仰られていたこと思い起こし、君のお心が、少し、分かったような心持ちが致したのでございます。

想いが通じぬというは、侘しいものだと、思い知ったのでございます。

自ずと、小さき溜め息なども零れて参りました。




その、智の耳に、微かに潤士郎が声、聞こえて参りました。


「違う」

「…え?」

「違う!」

「な…何が?」

「俺は智を…智を、俺は…!」


そう申し、振り返った潤士郎は、目許に強き光宿し、一直線に智の許へやって参ります。
そして、荒々しき仕草にて、湯に入ると、飛沫(しぶき)に驚き目を瞑った、智の唇を 奪ったのでございました。