再会

都にも、里にも、等しく季節は巡り来て、木々は葉を落とし、厚い雲より雪の降り、吐く息も白く凍てつく年の瀬を越し、新年迎え、新しき年も良き年であれと願うた日も過ぎ行きて、この頃は、急に強き風の吹きて、そこに花の香も芳(かぐわ)しゅうなり、陽射しの暖かきに、次の季節の到来を、感ぜずにはおかない日和となりましてございます。



大野の里の山桜、青葉茂り山萌ゆ道を、一人の男が急ぎ歩いておりまする。


その男、里を横切り、一目散に北の竹林を目指し行きました。

男は、竹の勢いに呑み込まれてしまいそうな東屋の表を通り過ぎ、縁に回り込みまする。

「智!俺だ!!今、戻った!!」


その男、潤士郎は、半年前より幾分引き締まった面を輝かせ、家の中に声を掛けましたけれども、その声に答える者なければ、また、どこぞで居眠りでもしておるのかと、あちらこちらを捜しましたけれども、やはり智の姿はなく、静まり返っておりました。


気が付くと、家の内は妙に片付けられ、見知った、智の家の雰囲気ではないように思われました。


潤士郎、胸、騒ぎ、再び庭へと降り立てば、竹林の内へと入ってゆきまする。


「智!居らぬのか!俺だ!潤士郎だ!」

呼べど、返ってくるは、笹の鳴る音ばかりにございます。
焦りを覚えつつ彷徨っておりますと、足元の穴に躓(つまず)きて、倒れてしまいました。


「いってぇ…こ、これは…」


どうやらその穴は、筍を掘りたる跡のようにございました。けれどもそれは、明らかに智以外の何者かが掘ったもので、余りにも不様な跡にございました。


「智はこんな掘り方はしない…智の身に何かあったのか…?!」


潤士郎、蒼くなりて、ふらふらと立ち上がり、懸命に考え、取り敢えず、自分の邸に戻り、家の者に尋ねてみようと思い立ち、邸への道を辿り始めました。






暫く行きますと、向かう方より、楽し気な話し声が聞こえ、二人の人影が見えて参りました。


潤士郎は、我知らず駆け出しておりました。
その気配に気付いた二人連れは、立ち止まり、潤士郎を待ち受けるようにてございます。


互いの面の造作も分かる程に近づきて、そこで、潤士郎は歩みを止めました。


「おー!潤!!帰って来たのかぁ?!」


潤士郎は、肩で息をして、暫し立ち尽くしまする。


「…はぁ…はぁ…智…と、和也?」

「お帰りなさい。潤士郎さん」

和也は髻もなく、智の如く短こうしておりました。そして、手にお櫃を持ち、爽やかに微笑みて、会釈しておりまする。


「な…なんで…?」


潤士郎疲れ、大いに驚いた様にて、二の句も継げません。
すると、和也、大声出だし、申しました。



「あっ!!しまった!忘れた!」

何とも白々しき申し様にございましたけれども、智も、潤士郎も、何も申しませんでした。