満ちゆく

夜毎、参られていた翔の君が、ふた夜続けてお越しにならなかったので、智は、少し心配しておりました。けれど、昼に参る潤士郎には、何か心苦しゅうて、尋ねられずにおりました。



「智、何か俺に隠しておらぬか?」


潤士郎に唐突に尋ねられ、智は困ってしまいました。

「何か心に掛かることがあるのだろう?何でも聞いてやるから、申してみ?」


問いかけに、ただ困った顔をして黙っている智を、潤士郎は、情けなく思われました。

「そうか…俺にも話せないことか。そんなことが、智にもできたんだな。前は、何だって話してくれたのに…」



そんなこと言って、潤も、都行きのこと何の相談もなく決めたくせに。などと思えども、口には致しませんでした。

「わかったよ。拗ねるなよ…」

「やっぱり何かあるのだろ?聞いてやる。申してみ?」

嬉しそうに申す潤士郎を横目に、智は、暫し思案しておりましたけれど、語ること、語らぬことを分けるにして、翔の君のご様子だけを尋ねればよいと思い立ち、口に致しました。

「あのさ…」

「うん」

「あの…」

「だから何だよ」

「うん…翔の君、元気?」

「はぁ?」

「いや…だから…」

「何で智が翔の君様のこと気にするんだよ」

「え…いや、最近見ないな…と、思って…」

「そりゃ、智がこちらへ来ないからお見かけしないんだよ」

「そう…だな…」


翔の君が、毎夜こちらへ参られていたことを、潤士郎は知らぬのだろうか?などと思いつつ、もじもじ致しておる智の手を素早く掴みて、潤士郎は歩み始めました。


「え?何?」

「ここで思い悩んでおっても始まらん。参ろう」

「ええ?どこへ?」

「決まっておる。我が邸。翔の君様の許じゃ」

「え…でも…」


戸惑う智でありましたけれど、潤士郎の引く手、導きに、素直について参りました。



それでも、邸が近こうなるにつれ、どことのう落ち着きのなくなる智に、潤士郎が尋ねました。


「どうした?何か、お目に掛かりづらい訳でもあるのか?子細によっては、俺が執り成してやっても良いぞ」

「いや…!それは…」


智は思うておりました。
あの晩のあれは、逢瀬だ。きっと、その前からそうだったんだ。そんなこと、潤になんか知られちゃまずい。
だって、おいら、潤のこと…。
でも、じゃあ潤はおいらのこと、どう思ってんだろ?
ただの幼馴染み、かな…やっぱり。でも、それでも、知られちゃったら、余計、潤が離れてっちゃう気がする。
そんなの嫌だ。