他方、離れに独り寝の雅紀の心中は、打ちつける雨音に煽られ、なお妖しく乱れておりました。

確かに、腕に傷は残りますれど、さして大きくも醜くもなく、時が経てば、馴染んでもこよう程にて。

されど、新しき笛を目にされた翔の君の、お喜びに溢れたお顔を思い出すにつけ、心、苦しく、傷の付いた笛と、傷を負った自分と、良き音を聴かす新しき笛と、それを手渡したる者とが、胸の内を駆け巡りて、身悶えん程にございます。


あの柔らかな御手は、もう自分には触れてくれぬかもしれぬ。あの熱き唇は、別の肌を吸うのであろうか?

などと思い至れば、熱い涙が溢れ、また、嬉しかった、一夜、一夜が、哀愁を伴って、体のあちこちで疼いて仕方なくなるのでございます。



「翔…我が君…」



雅紀は枕を濡らしつつ、辛い想いの捌け口を求め、疼く体を自ら弄(まさぐ)り、鎮めようと自涜(じとく)に耽り、そうすることしか出来ぬ我が身の侘しさに、更に、涙を深くした、雨の夜にございました。


雅紀の体を思いやって、お召しにならなかった翔の君のご配慮が仇となり、このように、雅紀を苦しめてしまわれたのでございました。