鼻先と鼻先が最接近して、ピリピリする。
「J…J!」
俺の声に、寸での所で止まってくれた。だけど唇は、激ヤバってくらいに近い!
俺は、なんとか布団から手を出してJの肩を押し戻した。
とにかく、一先ず落ち着こう。
明らかにJはおかしい。昨日、船外活動で何かトラブルがあったらしいけど、そのことと関係あるのか?リーダーは大したことないって言ってたけど、実は、Jが浴びちゃいけない宇宙線を浴びちゃったとか…?でも、さっきババ抜きしてた時はいつもと変わりなかったよね…。
俺が忙しなく頭を働かせてる間も、Jは潤んだ瞳で俺の事見つめ続けてて。その迫力といったら…。思わず赤面する程で。
ヤバい。
頭の中で警鐘が鳴る。
「分かった…分かったから」
俺は、言うと同時に手でJの視線を遮って、やっと目線を外した。
あのまま見つめ合ってたら、本当にどうなっちゃってたか、分かったもんじゃないよ。
俺は改めてJを横目で観察する。
上から下まで視線を這わせた。
見た目には変わった所はなさそうだな。じゃ、記憶は?記憶は大丈夫か?もし、大丈夫じゃないとすると、生命の根幹に関わる所が欠落してる恐れがあるけど…。
俺は、Jと俺しか知らない話題を振ってみた。でも…。
「そ…そうだね。Jの言う通りだよ。うん。間違いない」
大丈夫だ。Jの記憶は確かだ。じゃ、何故こんなこと言うんだ?そりゃ、Jの全部分かってるなんて思ってないよ。思ってないけど、いくらなんでも突拍子なさ過ぎる。
「ねぇニノ。もう、焦らさないで」
Jの手が頬に添えられ、振り向かせられた。
すぐ間近に迫る真剣な瞳。見た瞬間、違和感を感じた。
何だ?何か…いつもと印象が違った様な…。
「J…“コンタクト”は?」
「それを今からする所だよ」
挑戦的な目をしてJが言った。
こいつはJじゃない!!
俺が確信して口を開きかけた時、言葉を発する前に唇を奪われていた。俺は、パニクりながらも、その上唇に噛みついた。
口を押さえて、Jが壁を蹴って離れていく。哀しそうな目には、青い炎が燃えていた。
「待て!お前、何だ?!」
そう叫んで、俺は布団から出る為に、一瞬、Jから視線を外した。その一瞬に、Jは消えていた。
「もしかして、昨日のトラブルって…まさか…」
俺は、慌ててマウスウォッシュを噛んだ。